第321回:男三人山梨旅③~パワースポット後編~

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ロープウェイの山頂駅には思った以上に人がいて、人気に驚くと共に、自然を独占できない残念さがあった。看板によると、ロープウェイ駅から5分ほどのところと更に15分のところにポイント、いわゆるパワースポットがあるとのこと。その5+15分かけて行くところがいわゆる山頂だ。目指すのはもちろんそこである。下調べというものを全くしてこなかった僕らはいつものようにサンダルで、まぁまぁ厳しい山道を足早に登りだした。

高度が高いお蔭で多少涼しいとは言え、山の中を10分も歩けば汗が噴き出してくる。首の辺りから腹にかけて、Tシャツが段々と濡れて肌にくっ付く。替えの服を持ってくるんだったと後悔し始めた頃、ようやく目的地と思われるポイントに辿り着いた。そこは直径15mほどの大きな球状の一つの石の麓で、一歩踏み出せば崖に真っ逆さまの絶壁である。ロープウェイ駅から歩いていた人は、5分地点でだいたいお腹いっぱいになるらしく、ここまで登る人はほとんどいない。貸し切り状態だ。

それにしても・・・確かに景色は良いし、簡単には来られないし、まぁパワースポットってのはこんなものかと思った時、どうやら傍の丸い石の上に登れるらしいことを発見する。いちおう階段状に小さく地味に石が削ってあって、松の木に括り付けただけの頼りない鎖が手すりのようになっている。鎖にあまり体重をかけられなさそうなのと、万が一の時の犠牲を最小限に留めるため、まずは後輩Nを先に登らせ様子を見て、安全だと分かってから僕らも一人ずつ登った。

車で山道を走っている時、ロープウェイに乗っている時、山道を歩いている時、どれも見晴らしが良く、思わず深呼吸したくなるような気持ちの良い空気があった。しかしこの丸い石の上から観るこれは間違いなくそれらとは格が違う。山や川で育ち、“自然”と呼ばれる景色も見慣れた僕も思わず息を呑んだ。ここまで完成された景色は観たことがない。360度遮る物なく、どこまでも続く山々や、その間を縫って麓に窮屈そうにへばりつく町が見える。空が近い。まるで自分が世界の中心かつ一番高い所にいるようだ。球状の石の上、ちょっと踏み出せばズルズルストンと落ちていくであろう、その恐怖感も心地いい。なんでもできる心持にさえなる。パワースポットって言うと胡散臭いし、正直今まで大して興味を持ってこなかったけど、なるほどこういうことか。少なからず元気になった。

みんなTシャツとサンダルを脱いで、しばらく石の上でゴロゴロしてからSNSの待ち受け用の写真を撮った。我ながらなかなか良い感じの写真が撮れたとは思うけど、やはり現地の迫力には到底及ばない。下山中、案内板で、コンディションが整えば富士山も臨めることを知る。今度は試合前にでも、よく晴れた日を狙って、もう一度来ようと3人で約束した。

待ち受けけんと(温泉編につづく予定・・・)