星の王子様のLANDWALK

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SFCのAO入試の受験生を応援する立場ながら、生の研究にしっかりと触れたことがほとんどなかったが、はじめてSFCの研究会の展示会に足を運んだ。

SFCの石川初研究会によるLANDWALK-KITと名付けられたその展示会の公式サイトには、「私たちは外へ出て地上を歩き(LANDWALK)、世界を切り取って理解し、提案を世界に返す道具(KIT)を工夫し、磨いています。」とある。江戸時代の切絵図による渋谷の表現、コンクリートネイティブである若者にとってのコンクリート、ジェットコースターの造形に見えるもの、一つのソファの定点観測、絵日記から読み解く行動変化、らくがきのマッピング、徳島の山村の営みと風景、SFCオメガ館のオマージュ、と多様で多岐に亘るその研究だが、そこに共通するのは「味わい尽くす」という姿勢だ。

毎日の風景に、見落としているものがなんと多いことか。「建て替えられたビルの前の姿を思い出せない」「毎日目の前を通っているはずなのに使ったことのない店の場所は人に説明できない」というレベルのことも枚挙にいとまがない。作品を見ていると、いかに自分が意思を持って日々の風景や出来事と向き合わず、自分に今必要かという軸でしか情報を得ていないことに改めて気付かされた。本当は、仲間とのたわいのない会話、いつもの喫茶店で飲むコーヒー、そういった当たり前の風景の中にも味わいきれていないものがきっとたくさんある。

吉本興業の養成所で行われていると聞く、一本のバナナにひたすらツッコミを入れ続ける研修にも通じるが、面白さの種はどこか遠いところに落ちているわけではない。身近にあるものや何気ない行動を、愛とも呼べるほど愚直に観察し、視点を変え、別のものに見立てることによって、これまでとは違う味わいが見つかる。そしてそれを見つけようとする姿勢が、楽しさを味わう舌を磨き、喜びを増やす。その意味で、この研究会で追求していることは「生きることの本質」であり、またここで発信されているものは、味付けされた情報ではなく、個々人こそが「媒体」として生活や風景を切り取る主体であるという強烈なメッセージだ。そしてそれは、「ぱっと見の分かりやすさ」全盛の今へのアンチテーゼだ。

「本当に大切なものは見えないんだよ」。
サン=テグジュベリは、その著作である「星の王子様」でこう喝破した。受け手におもねる情報が溢れる今、「楽しそう」が分かりやすく向こうからやってきてくれることが多いから、ともすると自分で味わいを探す努力を怠りがちだ。けれども、そばにあるものを全力で見つめ、全身で感じ、簡単には見えないものを見ようとすれば、日々はもっと彩り溢れたあったかいものになる。

こんな気づきを与えてくれることも、これらの研究の社会への大きな役立ちのひとつだ。


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