ルール


マーク・ザッカーバーグ氏は2004年にFacebookのサービスを開始し、6年後の2010年にはフォーブス誌で総資産額40億ドルと推定され「世界で最も若い10人の億万長者」の1位になった。株式上場も果たし、2012年、彼の資産は総資産175億ドルと推定されている。資金力が豊富で技術力も高いGoogleやMicrosoftといった巨大企業が目を光らせるなか、大学生のうちに立ちあげたサービスで瞬く間にユーザ数を増やして一気に世界で有数の企業に育てたその技術力と経営手腕はすばらしい。普通の家庭(どちらかというと裕福で恵まれた環境ではあるが)に育ったザッカーバーグが10年もしないうちに自分の腕一つで大富豪になったのはまさにアメリカンドリームといえる。しかし、先進国での平均生涯賃金がせいぜい数億円である中、彼が創業以来8年で成しとげたことは本当に1兆円を優に超える価値があったのだろうか?

ビル・ゲイツ氏とともに1975年にMicrosoft社を創業したポール・アレン氏は同社が1985年にWindows 1.0を発売する何年か前に病気のために会社を離れている。しかし、彼はMicrosoft社の株を持っていたことで莫大な資産を築き、今でも1兆円を超える資産を持つ。彼が創業当初に行ったことの重要性を否定するつもりはないがその後のMicrosoft社の成功において彼の貢献はそこまで大きかったのだろうか?

Facebookによって長らく連絡のない人と連絡が取れたり、遠くに住む人と気軽に近況を分かち合えたりしてそのメリットを感じる人は多いだろう。10億人ものユーザが日常的にサービスを使っているのであればそれを提供する会社に6兆円の価値があってもそれほど違和感はない。何かおかしく感じるのは偶然一番乗りだった会社とその創業者の分け前が多すぎるのではないかということだ。もちろんFacebookも数々の競争相手と戦って勝ち残ってきたわけであるし、誰にでもチャンスはあるのでアンフェアだとは思わない。しかし、ルールが少し“Winner takes all”気味になっているのではないかと思うのだ。

ポール・アレン氏はMicrosoft社で70年代後半から80年代前半にかけて、プログラミング言語のBASICやPC-DOSとよばれるコマンドライン型のOSを開発した。もちろんそれが後のWindowsの開発の元にはなっているが、Microsoft社の地位を確立したWindowsやOfficeを開発した人たちとどちらの貢献度が高いかは自明ではない。

先進資本主義国でのビジネスにおいて富を得るためには実力も必要だが、巨大な富を得た人がそれ相応の実力をもっていたかどうかについては疑問が残る。ある程度のところは社会のルールで決まるからだ。

サッカーにおいて得点を決めると次は取られた方のキックオフから始まる。これはほんのわずかながら点を取られた方に有利な形である。それが得点を決めた方のキックオフから始めることにすればほんの少しながら点差は広がる方向に動くはずである。さらに、点を取るとキックオフを行うセンターサークルの位置を相手陣内に向かって5メートル動かすというルールにすればますます点差は広がる方向に動くことが予想される。フェアなルールであってもルールの決め方によって点差を開く方向に動かすことも狭める方向に動かすことも可能である。

基本的に規制はあまり好きではないし、自由に競争するのがよいとは思う。しかし、米国の反トラスト法や日本の独占禁止法のように点差が広がり過ぎない方向に動くルールが必要なこともある。資本主義の他にいい方法が思いつくわけではなく、真っ向から反対するつもりはない。しかし、1番に橋を造った人が半永久的にその橋を渡る人から通行料を取り続ける図式(特にその橋を造ることはそれほど難しくないが、2つ目を架けるスペースがないような場合)にはときに違和感を覚える。“Winner takes all”の図式を少し緩め、本当に競争すべきところで競争するようにルールを変える方法もあると思う。


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洋々代表。日本アイ・ビー・エム株式会社にて、海外のエンジニアに対する技術支援を行う。その後、eラーニングを中心とした教材開発に、コンテンツ・システムの両面から携わる。 東京大学工学部電子情報工学科卒。ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。