第57回:法と社会(その2)

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 今回は、「日本人の法意識」という講義内容について。

 日本人の国民性として、まず集団主義という点が挙げられる。いわゆる「横並びの行動様式」というもので、私たちの生活の、実に身近なところにも数多く見られる。中学高校の制服、リクルートスーツ、入社式など…例を挙げればキリがない。その根底には、日本人特有の「人並み意識」が存在する。個性の主張や人と違う行動は嫌い、人より優れるでも劣るでもない「平均」「平凡」という言葉を好む。『出る杭は打たれる』なんてことわざにも、そんな感性が現れているだろう。

 「滅私奉公」という四字熟語もある。鎌倉時代から続く道徳観で、文字通り、自分を滅してでも奉公する、いわゆる「自己犠牲」という考え方である。これは今現在の社会においても、特に企業風土として根強く残っている。「年俸制」や「実力主義」がうたわれる世に変わりつつあるが、根本的な思想の中には、まだまだ「組織第一主義」が存在するのだ。

 日本には「世間」という独特の道徳観がある。これが世界と比較して最も異なる点かもしれない。同じような意味を持つ言葉は存在しても、日本のように「世間体」「世間の目」といった用い方をすることは極めて少ない。極端な言い方をすると、そもそも世間や社会は私たち人間が「属し」「生活する」ための場であって、「気にする」という対象ではない、というのが日本人以外の人たちの考え方。だが実際は外国でも「マナー」という考え方はあるし、日本よりマナーが厳しい国も多い。結局、日本人が世間を気にする「TPO」が独特なのである。ちなみに、世界共通の道徳観は「親孝行」らしい。

 国民性というのは非常に面白いものだ。些細なことでもすぐに訴訟を起こし、弁護士を雇うのに高額な費用を費やすアメリカのような「訴訟社会」。それに対して日本は、裁判にならないよう、日ごろの接待やお付き合いに高額な費用を費やす「和解指向社会」。なるほど、どうりで日本のお父さんたちはみな足しげくゴルフ場に通うわけだ…。

                     慶應義塾大学SFC 環境情報学部 水谷 晃毅