第4回:ソーシャルイノベーション

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  第四回目の更新となる授業紹介。今回はソーシャルイノベーションという授業についてお話ししようと思う。そもそも、ソーシャルイノベーションという聞き慣れない言葉、一体何なのかということからお話しよう。ソーシャルイノベーション、日本語訳には社会起業という言葉が当てはまる。社会起業とは簡単に言うと、経済的メリットだけでなく、社会的メリットも大切にするということである。ここにそのソーシャルイノベーションのひとつの具体的な例がある。

  1991年のある日、ロザンヌ・ハガティは4歳の息子と一緒に、ニューヨークシティの43丁目と8番街の角にあるタイムズ・スクエア・ホテルの前を通りかかった。20世紀初めにできたこのホテルは、当時は、瀟酒なたたずまいで芸能人やジャーナリストの定宿だったが、いまではすっかりと荒れ果て、物騒なホームレスのシェルターになっている。息子の手を握りしめて、ロザンヌが、おそるおそる中に入ってみると、床にはゴミが散在し、悪臭が鼻を突き、虚ろな目をした老人が数人壁にもたれかかっていた。

  大学卒業後、ボランティアとしてホームレス支援をしていたロザンヌは、現場での体験を通して、従来の取組は「お札に火をともしているようなもの」と感じていた。おおくの善意や献身にも拘わらず、シェルターの多くは麻薬と犯罪の巣になっていた。もっとクリエイティブな方法が必要だ。

  「それなら、私がなんとかする」とロザンヌは、このホテルを買い上げ、しっかりとした支援プログラムをともなった新しいタイプの「居場所」を作ることを思い立った。大胆な、しかし、現実的な再建プランを立て、ニューヨーク市長を説得して、彼女の構想は実現した。彼女が創設したNPO「コモングラウンド・コミュニティ」は、その後、次つぎにニューヨークシティの真ん中にあるビルを改修してホームレス専用宿を作り、運営することになる。このNPO は現在、年間10億円程度の収益を上げている。

  つまりソーシャルイノベーションとは、「社会的なミッション(=使命感)をもち、経済的リターンと社会的リターンの両方を追求する継続的な活動で、従来のビジネス手法を積極的に採り入れるもの」である。 

  このような社会の新しい動きは、アメリカの有力大学が、この数年間で、こぞって学問の対象として取り上げているもので、「ソーシャルアントレプレナーシップ」、「ソーシャルベンチャー」、ないし「ソーシャルイノベーション」と呼ばれている。

  日本では新しい学問分野である、このソーシャルイノベーションは「問題発見解決」を幅広い知識を活かして多角的に取り組む点において、非常に「SFC的」な学問分野といえる。またSFCには起業を目指す学生も多い事から、SFC生内でもこの科目に興味をもつ学生は多い。実際にSFCは、有名な社会起業家を何人も排出しており、その方々が実際に特別講義をしてくださることもある。授業の一環でNPOに参加しレポートを提出することもある。

  自ら問題を見つけ解決しようとする、総発的な考えを持つ学生には非常に興味深い学問分野といえよう。