第126回:近代思想の世界(その1)
個人のアイデンティティが揺らぐなかで、社会と個人の関係が改めて見直されている。人間は、金を稼ぎ、うまいものが食えれば幸福なのか?人間は社会とどのようにかかわり、どのような「公」を築いてゆけばよいのか?
こういった問題は、単なる人生相談の問題ではない。古代から現代にいたるまで、人類は社会と人間の関係について、さまざまな思想を生み出してきた。もちろん古代や中世と現代では、背景となっている社会事情がまったく異なるが、これらの思想を学び直してみることは、それなりに無駄なことではない。
古代ギリシアからはじまり、現在にいたる政治思想の流れを把握することに努力することを目標とする。近代のみならず、古代や中世の思想も、決して現実ばなれした空理空論ではなく、その時代ごとの現実政治のなかから生れてきたものばかりである。それらは、現在とは異なった社会状況のもとで書かれたものではあるが、まさにそうであるがゆえに、現代社会を思いもよらなかったような角度から見直す視点を与えてくれる。これらは、それ自体として「自由とは何か」「幸福とは何か」「人間とは何か」「民主主義とは何か」といった問いに一定の回答を与えるだけでなく、社会学や現代思想を学んでいくうえでの基礎ともなる。
講義においては、思想を思想としてだけ読むのではなく、現在の問題にひきよせて理解するよう努めるつもりである。近年評判のハーバード白熱講義の基礎概念も学べる。半年の講義では、膨大な政治思想の「さわり」程度しか学ぶことはとうていできないが、ぜひ先人たちの知恵の宝庫を「覗き見」していただきたい。(以上、シラバスより。)
高校時代に世界史や倫理の授業を取っていた人もいなかった人も、政治や民主主義に関心がある人もない人も、専門分野や興味分野に関わらず触れることができる講義だ。聞いた事のある人物やエピソードも、その裏側にある背景知識や関連性とともに、一層深く理解する事ができる。教授の持論や、身振り手振りを交えた語り口は、迫力満点。一見の価値ありだ。