第131回:研究開発と組織(その3)

未分類

 企業には「基本理念」というものが必ず存在する。基本理念とは、「目的(単なる金儲けを越えた会社の根本的な存在理由)」と「基本的価値観(組織にとって不可欠・不変の主義)」から構成されている。たとえば、appleの基本理念は「Computer Power for Everyone」という言葉で表され、「すべての人々が使えるコンピュータを作り、それによって人々の能力や想像力をエンパワーする。そしてそのようにしてパワーアップした人たちを結びつけるネットワークを作り上げ、社会全体を活性化していく。」という大きなモットーがある。世界中にiPodやiPhone、Mac bookなどが普及していることからも、apple社のそうした理念がプロダクトにしっかりと反映されているように感じる。

 組織マネジメントのレベルを考える際にも、基本理念はもっとも基礎的な部分を担う。基本理念の次に、その組織の将来あるべき姿を示す「Vision」、いかにしてそのVisionを達成するかを表明する論理・方法である「戦略」、戦略を実行して行くための予算とスケジュールを示す「事業計画」、そして計画を実現するための具体的行動である「アクションプラン」という順になる。Visionおよび戦略は「リーダーシップ機能」、事業計画およびアクションプランは「マネジメント機能」とも呼ばれる。

 「ビジョン」というと、半永久的に変わらない(変えられない)もののように思われることが多い。しかし、ビジョンは基本理念ではない。変えることが可能であり、変えるべきなのである。永続する偉大な企業は、基本的価値観と目的を維持しながら、世界の変化に柔軟に対応している。具体的な企業の例としては、パナソニックが有名だ。社長に就任した中村邦夫氏は、松下幸之助という偉大なカリスマへの依存から脱却するため、経営理念以外は全て変えるという大胆な改革を行った。グローバル連結経営への方針転換や、人員削減による危機意識の醸成などがそれに当たる。「成功した人間はいらない。常に変わって行く人でないと、ここで生きる資格はもうない。」という言葉にも、その姿勢がよく現れている。

慶應義塾大学 環境情報学部 水谷 晃毅