第133回:研究開発と組織(その5)

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今回は、組織の具体的事例として「アップル」に触れてみる。

アップル社の音楽プレイヤー「iPod」を知らない人は、ほとんどいないのではないだろうか。町中にも、あなたの身の回りにも、iPodを使って音楽を聴いている人は大勢いると思う。ただアップルが真の意味で革新的だったのは、iPodの開発だけでなく、「iTunes」を生み出したという点だ。ウェブ上で音楽を手軽に視聴・購入することができるという、新しいユーザー体験。iTunesはユーザーのプラットフォームであると同時に、ビジネスのプラットフォームでもある。

数年後、アップルはもう一つのイノベーションを起こした。「iPhone」である。「高性能携帯電話+iPod+インターネット端末」と発表された通り、もはや携帯電話ではない。いや、従来の携帯電話を再定義したと言ってもいいだろう。電話をかけるときはボタン、映像を観るときは画面に、自由自在にインターフェースを変える。マルチタッチスクリーン等、先進的かつユニークなデザインが話題を呼び、世界的に普及していった。ここでもまた、アプリ配信などにおいて「iTunes」が大きな役割を果たしたのは、言うまでもない。
(そして現在の「iPad」へと繋がっていくわけだが、ここでは省略しておく。)

組織としてのアップルが一度「死んだ」という話は有名だが、それではなぜアップルは復活することができたのか。その本質は、マネジメントや戦略、分析といった非人間的管理の呪縛から解き放ち、創造性の血を組織の隅々まで送り込んだことにある。スティーブジョブズが年俸$1でCEOの職を引き受けたのも、「金儲けのためにアップルに戻ったのではない」という、ある種の意思表示なのだ。アップルの「創造性」は、徹底したブランド管理からも見てとれ、白いイヤホンやカチカチという操作音、テレビCMなども、まさにその徹底具合を示している。「メーカーというよりマーケティング企業」と言われる所以も、そこにあるのではないだろうか。

慶應義塾大学 環境情報学部 水谷 晃毅