第135回:研究開発と組織(その7)

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授業ではベンチャーマーケティングの成功例として、アメリカのザッポス社を取り上げた。

日本ではあまり知られていないが、ザッポスはアメリカで非常に有名な「靴のオンライン販売」を行っている企業である。そのサービスはもはや伝説的と言われており、感動のあまり涙ながらに礼状を送る顧客もいるほど、極めて高い顧客満足度を誇っている。実際、そのウェブサイトにも顧客からの感謝と賛辞が溢れていて、まさに「A Customer Service Company That Happens to Sell Shoes(靴を売ることになった顧客サービス企業)」なのである。

ザッポスのサービスの特徴は、徹底した顧客サービスにある。フリーダイヤルをサイト各所の目立つ所に用意したり、自社に在庫がないときには他のオンライン店舗を調べたりするなど、とにかく顧客への対応が丁寧だ。問い合わせの電話にしても、オペレーターの生産性を測らず、電話の時間も無制限(最長で7時間半という電話対応もあったのだとか)。決まったスクリプトもなく、オペレーターの自主性に任せた柔軟な対応を可能としている。

そうした根底には、ザッポス独自のコアバリューがある。「サービスを通して”ワオ!”という驚きの体験を届ける」「楽しさとちょっと変なものを創造する」「より少ないものからより多くの成果を」といった十ヶ条で表されたその価値観は、企業文化にも反映されている(たとえばザッポスでは、研修中に辞める新人に対しては賃金+2000ドルの退職金を払う。お金だけにつられるような人は要らないという、明確な意思表示だ。)。

ソーシャルウェブの進展により、顧客の経済性にも劇的な変化が起きている。いわゆる「誰かに言いたくなるような体験」を提供することによって、顧客との間に気持ちのつながりが醸成され、顧客群が「ファン化」する。ファン同士は体験や思いをシェアし、さらに新たなファンを生み…という好循環になるわけだ。

慶應義塾大学 環境情報学部 水谷 晃毅