第54回:デザイン言語(その5)

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 今回は、Design Studio S代表・柴田文江氏の講演内容について。

 柴田氏の手がけたプロダクトの代表例として、まず「オムロン体温計」がある。みなさんの家庭でも、オムロンの体温計を使っている人は多いだろう。全体的に丸みを帯びたフォルム、先端を平らにすることで使いやすさを追求したフラットセンサー、裸眼でも見やすいように既製品の4倍の大きさの画面など、使う側の視点からさまざまな工夫が施されている。中でも私が感心したのは、数字を縦表示にしているという点。右利き・左利きどちらの人にも見やすいように、という配慮からこのような設計になったらしい。

 講義ではコンセプトの発案過程についてもお話を伺うことができた。「リンゴがリンゴであるように」。自然のものは合理的に生まれてくる、合理的なものは自然になる。プロダクトがそのままの形で生まれてきたかのようなデザインを追求した結果、コンセプトは「Mother’s Love」となった。一家に4本あると言われる身近な医療器具だからこそ、私たちが自然に触れられるような、「慈愛」というイメージでデザインされたのである。

 別の代表例としては、小林製薬の「消臭剤」がある。おそらくこれも見たことがあるという人は多いだろう。少し丸みを帯びた立方体のようなフォルムで、真ん中には穴が開いている。コンセプトはずばり、「空気の流れをカタチにする」。空気が通り抜けていくような穴をイメージしてデザインされ、さらにこの穴によって全体の空気に触れる表面積が大きくなり、消臭効果も高くなる。「消臭剤」本来の役割にも結びつけた、すばらしいデザインだと感じた。

 講義の後半では、柴田氏が現在携わっている「nine hours」というカプセルホテルのデザインプロジェクトが紹介された。実はカプセルホテルというのは日本の大阪が発祥の地である。しかし「カプセルホテル」と聞くと、ビジネスマンの出張用というイメージが強く、女性にとっては利用しづらいという現状がある。そこで、女性客にも気軽に利用してもらえるような、スタイリッシュで清潔感のあるカプセルホテルを作ろうというわけだ。服やアメニティなど体に近いものにはできるだけ自然に近いものを採用し、余分な機能は一切排除することで価格を抑える。まさに男女を問わず気軽に気持ちよく宿泊することができる、「道具のようなホテル」である。完成した際には、ぜひ利用してみたい。

慶應義塾大学SFC 環境情報学部 水谷 晃毅