第58回:法と社会(その3)

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 今回は、「定期借家権」という講義内容について。定期借家権とは、いわゆる「賃貸物件」において、貸し手と借り手の間に生じる権利のことである。

 そもそも日本という国自体、建物や町並みに関する法規制は世界の先進国の中で緩い方に入る。ヨーロッパの先進国ドイツでは、土地利用・町並みともに規制が厳しく、例外は役所や協会のみだと言う。そのおかげで、街並みは日本とは比べ物にならないほど綺麗で整っている。日本の街並みは、ある意味で伝統を感じることはできても、建物の大きさも外観もまちまちであり、はっきり言って「汚い」。

 定期借家権は、そのような日本の伝統的な街並みを形成することになったひとつの原因である。賃貸人(貸し手)の解約申し入れには「正当事由」が必要なのに対し、借り手は民法の原則どおり、いつでも解約を申し入れることができる。この「正当事由」というのが非常に厄介で、具体的には「女子寮にする」など、借り手にとってどうしようもない理由でなければならない。さらに、6ヶ月の猶予期間をもってあらかじめ借り手に申し入れなければならないのだから、賃貸人にとって自分から解約を申し入れる(住民を追い出す)ことは、なかなな手間も時間もかかる仕事なのである。

 そうなると、賃貸物件というのは貸主の立場にとって、いったん貸すとなかなか(自分の都合では)返ってこないし、貸している際に賃料を取っていても「立ち退き料」として金額を払わなければならない。うまく折り合いがつかずに訴訟なんてことになってしまうと、それこそ余計な時間や費用がかかる。さらに複数の入居者がいると、単純にそれらの交渉が人数分必要になるわけだから、建て替えも困難を極めるのである。

 その結果、賃貸物件を建てる貸主は減少し、古い物件は壊され、空き地は駐車場になるのである。たしかに改めて考えてみると、これだけ全国各地に「コインパーキング」がある国なんて、世界の中でも珍しいだろう。

                     慶應義塾大学SFC 環境情報学部 水谷 晃毅