第67回:リーダーシップ論(その5)

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 今回は、「動機づけ」について。

 人が何か物事を成し遂げる際、「モチベーション」が大きく関わってくる。そしてこのモチベーションをコントロールするのも、リーダーの重要な役割のひとつである。

 人材育成における企業の例を見てみよう。例えば、資生堂。従来の成果報酬制度による「売り込みすぎ」を改善し、「売上目標の廃止」「顧客評価のハガキによって収入を決定」などの、原点回帰を行った。その結果、社員ひとりひとりのモチベーション向上に成功し、客を第一に考えて商品を薦める、ときには自社の製品でも薦めないといった、より柔軟な接客が可能になった。そうして築いた信頼関係により、2年後に売り上げが急上昇した。

 この例を踏まえると、目標管理制度というのは、動機付けの過程においては「必要悪」であると言える。短期的な結果のみを重視し、数値化できないものは度外視する。当然自己中心的になり、本当の意味での「モチベーション」とは程遠い結果になってしまう。

 モチベーションに与える影響は学術的にも証明されている。「ブラゼボ(偽薬)効果」という言葉をご存知だろうか。私たちが何か体調不良を感じて医師に診察してもらった際、医師から具体的な病名を告げられると、より一層体調が悪いように感じられてしまう。逆に医者から大丈夫と言われれば、なんとなく大丈夫な気がしてくる。あくまでメンタル的なものなのだが、専門家である医師による見通しは強い力を持つ、ということである。

 また、「学習性有能感」というものもある。一度成功していると「また成功できる」という意識が潜在的に働くようになり、より積極的なチャレンジが可能になる。私たちが部活などで毎日厳しい練習をするのも、スキルを磨くだけでなく、この「学習性有能感」を身につけるためなのである。モチベーションを上げ、本番での成功率を上げるためには、「成功体験」が必要不可欠なのだ。

 モチベーション(内的動機)を向上させるには、3つの「C」が必要であると言われる。
・Collaboration(協力)
・Content(満足)
・Choice(選択)
 上で述べたような手法をうまく使いながら、この3つを万遍なく満たしていく必要がある。しかしリーダーシップの本質として、人を「動機付けさせる」ことはできない。できるのは、「動機を高めるように影響を与える」ことなのだ。

                     慶應義塾大学SFC 環境情報学部2年 水谷 晃毅