第78回:情報法(3)

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 今回は「IPマルチキャスト放送」について。

 IPマルチキャスト放送とは何か。一般的には、閉じられたIP網(専用回線)を通じて、映像コンテンツを提供するサービス「リニア」と、オープンなIP網でサービス提供を行う「ノンリニア」に分けられる。前者は現在BBTV、MOVIE SPLASH、ひかりTVの3つ。後者はYahoo!動画やGyaoなどが挙げられる。

 このような放送によって、私たちは通常のテレビ放送以外にも多くの番組を好きなときに視聴することができるようになった。一見すると、かなり自由度の高いサービスにも思える。しかし現実には、タレント事務所の方針等によって、公式にはネット上に出ていないケースもある。その代表例が、SMAPなどの「ジャニーズタレント」。テレビドラマの公式ホームページにおける「キャスト紹介」などで、他のタレントたちはみな顔写真が掲載されているのに、ジャニーズタレントだけは載っていない、といった経験をしたこともあるはずだ。IP放送においても同様で、彼らの映像はあまり出てこない。その理由は、「いつでも観ることができるのでは、タレントとしての価値が下がるから」。つまり、ジャニーズタレントは「アイドル」としての希少価値を重視しているため、「いつでも自由に視聴できる」というIP放送のスタイルは合わないのである。

 また近年では、各業界ごとに様々な規制が存在し、それらの垣根が崩壊していると言われる。代表的な例だけを紹介すると、10分理髪店における「理容師法」と「美容師法」、漫画喫茶における「旅館業法」と「食品衛生法」などがある。IPマルチキャスト放送においても同様で、電波法、放送法、電気通信事業法、有線テレビジョン放送法、著作権法など、実に多種多様な規制が存在するのである。IP放送をより広めていくためには、イギリスのように、新たな技術に柔軟に対応できる法制の整備が求められる。

 以上のように、IPマルチキャスト放送には多くの課題が残っている。しかしそれらを乗り越えることができれば、ビジネスとしてもサービスとしても、実に大きな可能性がある。地域限定で放送されている「ローカル番組」の中から、面白い番組を全国に放送することもできる。そうすることによって、似たような番組ばかりになってしまっているキー局にも、競争を生み出すことができるのである。一人の視聴者としても、大いに期待したい。

慶應義塾大学SFC 環境情報学部 水谷 晃毅