第88回:企業の社会的責任(その7)
今回は、「民営化」について。
「市場の失敗」という言葉をご存知だろうか。たとえば、市場での競争が不十分なため価格が吊り上げられたり、情報が取引者間で異なるため取引が十分に行われないなど、いくつかの理由によって、結果的に市場が非効率な状態になってしまうことを指す。一方で「政府の失敗」という言葉もあり、こちらは政治の関与によって社会的に見ると非効率な事業が開始・継続されたり、ある特定の集団に利益が与えられるような事業が行われたりすることを指す。政府による補助や救済を期待した非効率な経営が行われることもある。
近年では、経済の成熟化、金融市場安定化に寄与する制度整備、金融技術の進歩等により「市場の失敗」が相対的に小さくなる一方で、社会経済環境変化への対応スピード等により「政府の失敗」の問題が相対的に大きくなっている。
そこで登場するのが「民営化企業」である。そもそもは公団・事業団などの特殊法人や公社などの公的組織を民間会社化した企業のことを指すが、日本においては会社法の適用を受ける「株式会社」化したことをもって民営化といわれるケースが多い。株式所有が100%となった時点で「完全民営化」と言われる。
民営化の代表例としては、「三公社」が有名だ。「小さな政府」を目指す行政改革の取り組みの中で、中曽根内閣により進められた「電電公社」「国鉄」「専売公社」の民営化である。電電公社の場合は電気通信市場の自由化による競争促進、国鉄は赤字体質と巨大債務の解消、そして専売公社では経営の自由度の向上が大きなテーマだった。
2000年代に入り、記憶に新しいところでは小泉内閣の「郵政民営化」だろう。郵便事業の効率化、郵便貯金や簡易保険における民業圧迫の解消がテーマに挙げられた。2005年の総選挙ではこの郵政民営化が大きな争点とされ、自民党が圧勝、2007年には日本郵政公社の分割・民営化が実現された。
しかし、2009年9月の総選挙で民主党を主体とする政権交代が実現し、今度は日本郵政グループの民営化見直しが進められている。「民営化」というキーワードからは、今後も目が離せなさそうだ。