雲の上の景色
飛行機の離陸5分後が好きだ。大雨の日に飛行機に乗ると、離陸後しばしの強い揺れの後、一瞬にして視界が開ける。大荒れの地上の天気とはうって変わって、それこそ雲ひとつない青空の中で、太陽との対話の時間がそこにはある。
勉強、スポーツ、音楽、美術、仕事…どんな世界でも、それぞれの世界でそれぞれの高みに登った人だけが見える景色がある。今まで見えなかった太陽が現れるのだ。しかし、雲を抜ける前に高度を下げてしまう人があとを絶たない。既に太陽を見た人からすれば、「あと少しで太陽を見られるのに」という気持ちになることも少なくないだろう。
もちろん、こうしたことはなにも21世紀特有の現象ではない。しかし、転職するのが普通のこととなり生き方の選択肢が増えた今、昔よりも一ヶ所にしがみつこうとする人が減ったことは事実だ。これを「現代人は精神力が弱くなった」と片付けるのは簡単である。けれどもそうした側面が仮にあったとしても、精神論だけでは打ち手は見えない。
最近の10代、20代の人たちを見ても、昔よりも精神力が弱くなったとは思わない。また不真面目になったとも思わない。むしろ10年前と比べて、自己研鑽に余念がなく、「無駄な時間」をいかに削れるか、ということに一生懸命な若手が増えた印象がある。時間をより大事に使おうとしている人や、自己の成長への渇望感を持つ人は10年前と比べても確実に多くなっている。私自身の周りにも一生懸命自分を磨こうとしている人が沢山いる。けれども、多くの人が「先が見えない不安」にさいなまれ、次第に信じていた「太陽」の輝きすら色あせていく。そして太陽が見える前に別の道を選ぶ。
多くの人が高度を下げてしまう理由は「この苦しみの向こう側に何があるのか」が見えないことにあると思う。入ってくる情報が多くなり、「絶対方程式」と捉えられてきたことがあちこちで崩れ去る様を目の当たりにして、自分は何を信じていいのか分からなくなっているのである。目的地が分からない行進ほど苦痛なものはない。
これまでの「常識」が崩れつつある中、自分のやっていることに不安を覚えることは今後ますます多くなる。過去の延長線上で捉えられなくなった「新世界」で、私たちは何をすべきだろう。
まずすべきなのは日々、世の中との対話力を磨くことだ。「新世界」では「自分の尺度」を作ることが不可欠だが、それが中長期的に見て世の中に必要とされているものでなければ意味がない。そして、もう一つは自分との約束を守ること。もちろん柔軟さは必要だ。けれど、自分が何を頑張るのか、ということを徹底的に考え抜き、進むべき方向を決めたら、ちょっとやそっとのことで一々ぶれてはならない。
今見えている大荒れの天気に惑わされず、雲の上の景色をイメージしよう。私自身、今日も一足一足足元を固めていく。きらめく太陽と一対一で語り合えることを信じて。
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人の成長を支援する「洋々」GM。経営コンサルティング会社A. T. Kearneyにて、Managerとして金融機関を中心に数多くのコンサルティングを手掛ける。また、採用担当者として多くの面接を行うと共に、コンサルタント向け研修プログラムの作成、実施にも深く関わる。金融専門誌への執筆多数。慶應義塾大学経済学部卒。ミシガン大学ビジネススクール・MBA Essential program修了。