湘南新宿ラインとギリシャ

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 2001年に湘南新宿ラインが走るようになってから、首都圏の交通の利便性は格段に上がった。湘南新宿ラインに限らず、近年の首都圏における鉄道の相互乗り入れの充実によって、今や成田から羽田へも、川越からみなとみらいへも、大宮から小田原へも、三田から日吉へも乗り換えなしで行き来できるようになった。反面、自分とは全く関係ないところで起こった事故を意識することも増えた。鴻巣あたりで架線にビニール袋が引っかかったり、桶川近くで線路に人が立ち入ったりして、横浜で電車が大幅に遅れるくらいのことにはもう慣れた。京王線で人身事故が起こると、なぜか京王線と乗り入れをしていない小田急線や田園都市線が遅れたりもする。一度も行ったことのないような場所で起こった信号機故障で、ラッシュ時の混雑に拍車がかかると、「なんで栃木に俺が巻き込まれなきゃならんのだ」とうんざりすることもある。
 
 この1週間、ギリシャが報道をにぎわせている。結局ギリシャはIMF(国際通貨基金)から借りた2,000億円(15億ユーロ)を期限までに返済できなかったが、今回の件に限れば世界経済への影響は限定的に見える。しかし、EUが強く求める緊縮財政政策の受け入れ可否を問う国民投票の結果次第では、更に影響が広がる恐れもある。今回は借金を返せなかった相手が「公的機関」であったためひとまずは免れたが、事態がさらに悪化してギリシャが「デフォルト(債務不履行)状態」と判断されたり、EUから離脱したりするようなことがあると、その影響の広さと深さはどれ位になるかは分からない。リーマンショックの時も、リーマンの破たんが世界経済にどこまで波及するかについて専門家の間でも意見は分かれていた。サブプライムローンを組み込んだ債券にほとんど手を出していない日本の金融機関への影響は軽微とも言われていたが、欧米諸国の景気後退はその後日本にも少なからず波及した。今や世界は単純な一本の糸で繋がっているわけではない。

 グローバル化した社会は鉄道の相互乗り入れに似ている。人、モノ、カネの動きが自由になるメリットは間違いなく大きいが、時々、思いをはせたこともない場所で起こる事故によって、不利益を蒙ることもある。「君たちはどう生きるか」の中で吉野源三郎が説いたように、目に見えているものの裏側に無数の人が関わることによって社会は成り立っている。その意味でギリシャ問題も湘南新宿ラインの遅延も、ともすると日常の中で忘れられがちな「自分が立っている基盤」に目を向ける好機である。

 そう考えて、これからは籠原あたりの車両点検にもおおらかな気持ちで向き合いたい。


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