「一人NPO」のススメ
最近の高校生の社会に貢献したいという意識の高さには目を見張るものがある。普段接しているのが、AO入試で大学に挑もうとしている人だからということを割り引いても、若者たちがプライベートのかなりの時間を、社会を良くしようとボランティアやNPOの活動に費やしていることに驚かされる。その内容も「赤い羽根共同募金への参加」とか「地域のごみ拾い」のような私世代の人にとってはポピュラーなものだけでなく、発展途上国の支援、東日本大震災の復興支援、ホームレス支援、特養老人ホームでの活動、バリアフリーの普及、里山を守る活動、引きこもり支援、地元商店街の活性化など多岐にわたる。豊かになったことで、高校生くらいの世代でも満たされていない「社会の不具合」に目を向ける余裕が生まれた証とも言えるが、もっといい世の中にしたいと願う彼らの純粋な正義感は嬉しい。けれどそうした活動ばかりが世直しの形ではない。
かつて新幹線に乗った時、隣に座っていた泣き叫ぶ赤ちゃんを変顔を交えた「本気のベロベロバー」で泣き止ませ、車内の乗客から声なき喝采を浴びていた若者がいた。他にもう一人小さな子供を連れていたこともあってデッキに移ることもままならなかったお母さんは、降りる時にもちろん心の底からの感謝を言っていたが、そのお母さんだけでなく他の多くの乗客がその若者に感謝の目線を送っていた。金曜日の夜だったこともあり、乗客は出張帰りと思われるビジネスマンが大半だったが、彼らは泣き声に辟易としていながらもお母さんの心の内も察して、なんとか我慢しようとしていた。そんな状況の中で、誰かが「正義の人」として強くたしなめたら、お母さんはデッキに移り車内は静かになったかもしれないが、後味はすごく悪かっただろう。この若者の行動は、少数派が居場所を失わずに、社会の秩序も守る活動のお手本のようなものだった。それ以来私も、泣き叫ぶ子供が近くにいたら全力であやすようになった。もちろんお母さんに嫌がられないことが前提だが。
みんなの最大公約数を満たすところを優先して社会は整っていくから、制度が追いつかない部分を埋めるNPO法人やボランティア団体はもちろん必要だし、それに参加する人たちの気持ちはもちろん尊い。けれど、日常の中のちょっとした心遣いとおおらかさも、きっと「社会の不具合」を減らす大きな原動力である。
「世の中をもっとよくする為にNPOやボランティアに参加する!」「もっと積極的に寄付をする!」なんて力まないでも、一人で出来る世直しはたくさんある。
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人の成長を支援する「洋々」GM。経営コンサルティング会社A. T. Kearneyにて、Managerとして金融機関を中心に数多くのコンサルティングを手掛ける。また、採用担当者として多くの面接を行うと共に、コンサルタント向け研修プログラムの作成、実施にも深く関わる。金融専門誌への執筆多数。慶應義塾大学経済学部卒。ミシガン大学ビジネススクール・MBA Essential program修了。