コンフリクトの解消法
先日、柔道のグランドスラム・東京が行われた。旧嘉納杯が名称変更されて初めて行われたこの大会で、男女各7階級のうち、男子は4階級、女子は7階級で日本勢が金メダルを獲得した。「日本柔道の凋落」が取り沙汰されることが多い昨今、かつて柔道を嗜んだ私にとっては大変溜飲を下げるものであった。
オリンピックや世界大会で、昔ほど金メダルを取れなくなった柔道に対して、世の中の評価は辛い。「お家芸」の柔道は、金メダルを取ることが当たり前とされがちであり、メダルを逃そうものなら、マスコミには「日本柔道、惨敗」と書きたてられる。また、谷亮子選手がシドニー五輪前に「最高で金、最低でも金」とその目標を語ったように、柔道家自身も彼らの多くが表彰台の一番高いところに立つことを「宿命」と捉えているように見える。
しかし私は、金メダルが取れなくなったことを嘆かわしいことだとは思わない。もちろん、日本人として日本の金メダル数が多ければ嬉しく思うのは自然であるし、また、頂上を目指す選手の心意気にも拍手を送りたい。しかし、日本が金メダルを取れなくなったのは、他の国の選手が強くなったから、と見ることも出来る。日本生まれの柔道をやってみたいと思い、日夜稽古に励み、そして世界の頂点を目指したい、と頑張る海外の人が増えた証である。これは、日本人としてむしろ喜ばしく、誇らしいことでもある。
実際、今や国際柔道連盟への加盟国・地域は199を数え、特にヨーロッパでは非常に人気が高い。集計の方法が異なるために単純に比較は出来ないとは言え、柔道人口はドイツでは35万人、フランスに至っては50万人を超えており、20万人内外の日本の倍以上になっている(日本の人数は全日本柔道連盟への登録競技人口)。また、ロシアのプーチン首相も柔道の愛好家として知られている。
嘉納治五郎が、武術を理論化・体系化し、安全性にも配慮した形で競技化を進めたところから柔道は始まった。柔道が世界中に広まったのは、この嘉納治五郎の精神を引き継いだ柔道界が、長い年月をかけて地道な努力を続けてきた結果と言えよう。カラー柔道着の採用、寝技におけるポイント獲得までの秒数変更、ゴールデンスコア方式の採用、効果の廃止、足取り技の禁止…。ここ10年で見ても、柔道の国際ルールは目まぐるしく変わってきた。これらの中には、柔道発祥の国である日本の柔道界にとっては、それこそ苦渋の選択であったものも含まれるであろう。しかし、「より多くの人に柔道をしてもらい、柔道が益々発展する」という大目的のために、柔道はチャレンジを続けてきた。
自分と相手の主張がいつまでたっても噛み合わない、議論が平行線をたどって落とし所が見つからない。このようなコンフリクトは私たちの日常にあふれている。柔道界のチャレンジは、そんな私たちにヒントをくれるかもしれない。
大目的に立ちかえること。コンフリクトに直面した時の、これが一つの処方箋である。
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人の成長を支援する「洋々」GM。経営コンサルティング会社A. T. Kearneyにて、Managerとして金融機関を中心に数多くのコンサルティングを手掛ける。また、採用担当者として多くの面接を行うと共に、コンサルタント向け研修プログラムの作成、実施にも深く関わる。金融専門誌への執筆多数。慶應義塾大学経済学部卒。ミシガン大学ビジネススクール・MBA Essential program修了。