ベンジャミン・フランクリンの職業
アメリカの最高額紙幣、100ドル札に描かれているのは誰か。ワシントンでもジェファソンでもリンカーンでもトルーマンでもルーズベルトでもケネディでもない。ベンジャミン・フランクリンである。
フランクリンは様々な顔を持つ人であった。政治家としてトーマス・ジェファソンらとともにアメリカ独立宣言を起草し、合衆国憲法に署名した。政治家になる前は印刷業を営む実業家として大きな富をなした。彼がアメリカに初めて設立した公共図書館は、その後各地に公共図書館が普及する礎となった。嵐の中でワイヤーを通したタコをあげ、雷の正体が電気であることを突き止めた科学者でもあった。避雷針や遠近両用メガネなどを作った発明家でもある。また、当時は実現されなかったもののサマータイムの考案者でもあったらしい。
彼はまた偉大な哲学者でもあった。多様な分野で多くの功績を残したフランクリンの言葉は、人生哲学として語り継がれている。その中身は、大きなことをなすための心構え、妻や友人との関係から、お金に関すること、時間の大切さを説くものまで様々である。
この多才なフランクリンの職業を一言で表すのは難しい。けれども、もし彼が自分は科学者だ、と決めてかかっていたら、実業家や発明家、政治家としてのその後の活躍はなかったかもしれない。
ダヴィンチ、ミースファンデルローエ、クセナキス、坂本竜馬、渋沢栄一、佐藤可士和、北野武、つんく、Lady GAGA…。フランクリン以外にも、古今東西、いわゆる職業を表す言葉では彼らがなした仕事を言い表せない人は少なくない。が、彼らの職業が何であったにせよ、世の中に対して価値を出していたことは間違いない。
全ての仕事の本質は、世の中に価値を出すこと。社会が変わり、相手が変われば、その価値の出し方も自然に変わる。そして職業を表す言葉の意味も、その実態とともに変わっていく。
「それは教師の仕事ではない」「コンサルタントの仕事ではない」「経営者の仕事じゃない」といった固定概念が、時に価値を出すことの邪魔をする。自分はその仕事のプロであるという誇りは大切だけれど、決まった形にとらわれ過ぎると間違うこともある。お客さんに、時代に求められているものを見つめ、自分が出すべき価値は何かを常に問い続けたい。そしてそのうち、自分の価値の出し方が、多くの人が挑んでみたいと思える「職業」になったりしたらすごく楽しい。
金額の大小がその人の価値を示すものではないけれど、100ドル紙幣の肖像にフランクリンが選ばれていることに、フロンティア精神を重んじるアメリカらしさを感じる。ベンジャミン・フランクリンの職業はまさしくベンジャミン・フランクリンだった。
今日もまたどこかで、新しい職業への挑戦は続いている。
100年前には、秋元康氏の職業はなかった。
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