第25回:「赦し」か「復讐」か

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新宿の南口にある小さな映画館。都内ではそこと渋谷と丸の内の3つの映画館でしか上映していない。その規模とは釣り合いのとれていない素晴らしい映画がある。デンマークの映画。監督はスサンネ・ビア。「悲しみが乾くまで」「アフター・ウェデング」など、予期せぬ事態に直面した登場人物たちの感情や葛藤をリアルに書きだしてきた作品で知られる。今回の映画、タイトルは『未来を生きる君たちへ』。

子供の頃誰しもが見ていた光景、いわば原風景のような映像が作中しばしば登場する。舞台はデンマークの田舎町。西日の中海辺で凧をあげ、胸の高さまである草原の中で駆け回り、川を自由に泳ぎ、ラジコンでレースをし、工具場でいたずらをする・・・。作中のデンマーク人たちの美しいブロンドの毛や空をうつす眼が日に当たって一層きらめく様子に、それらの原風景に似た美しさと繊細さを連想させられる。ストーリー性を超越した、作品自体の持つ高揚感や神秘性がこれらの光景にいっぱいに詰め込まれている。字幕なしで観たとしても必ずや涙は落ちてくる不思議な作品だろう。

タイトルの英訳は「In A Better World」、そして和訳は「未来を生きる君たちへ」。とても調和的な印象を受けるが、原題は「HAEVNEN」、デンマーク語で「復讐」の意だ。英・和の両訳からは対極的なイメージの言葉だが、しかし作品の題材は復讐そのものだ。そして作品は続けて語る。「復讐」は君の目の前でも、そして遠くの貧困地域でもはびこっている、と。そこにスケールの差以外なんの違いもないのではないのか、と・・・。正義と悪の間にある壁を人々は幾度となく確認し、安心し、それを破壊し、また築き・・・。繰り返される人類の過ちが、純粋な子供たちと彼らを守ろうとする親たちの無垢な愛情を通して改めて僕達の目の前に突きつけられる。

9.11を始め、今日横行する復讐の色。しかし憎しみは憎しみを生むという連鎖の中、どこでどうやって「赦し」が生まれるのか。そんなスケールの大きな話をこの作品は見事にヒューマンスケール化し、子供たちの喧嘩や地域紛争といった具体的かつ明快なテーマに話を落とし込んでいる。

『憎しみを超えたその先に、きっと新しい世界が広がっている』

映画のキャッチコピーが指す明るい未来は、果たしてどのように創造されていくのだろう。そんなある種の楽観的視点で最後は締めくくられ終わる。3.11から半年経った今、私達はこの作品を見て涙を流して、何かを赦し前進していく事を学ばなければならない。

更新:2011-09-17
早稲田大学 創造理工学部建築学科 佐藤鴻