第58回:Strange Houseが教えてくれた事 ~震災から2年目の今日~ 1
東横線の延長と共に目まぐるしく開発が進む代官山。ここにはつい最近まであの同潤会アパートがあった。建蔽率25%で3階建てと聞けば分かる様に、広い土地に対して広い空間がとられた草木の生い茂る場所だった。震災で焼けただれた東京に突如現れた同潤会の鉄筋コンクリート造のアパートは不思議な空気を纏っていたという。それも今は高層マンションへと姿を変えた。すっかりショッピング街へと姿を変えた代官山は、今また高級住宅地へと歩みを進めている。新しく建った巨大なTSUTAYAにはドッグランや子どもが遊べる場所から、大人が落ち着けるカフェやレストラン、高級車のショールームまであり新しい街の顔となっている。そんな目覚ましい開発真っただ中の駅周辺を少し外れて渋谷へと向かう途中、古い住宅街がある。同潤会アパートと同じくらいの年代のものもチラホラある。そこは繁華街である代官山と渋谷の狭間に取り残された場所だ。
ある夜、僕はその界隈を歩いていた。こういう所を歩くのに目的は必要ない。目的のない地だからだ。すると古びれたアパートの前に「Strange House」と手書きで粗雑に書かれた看板がネオンで照らされているのが目に入ってきた。確かネコの絵も描かれていた。古い住宅街のせいか街灯も少なく、「Strange House」は小さくこじんまりとしているのに異様なまでに目立っていた。恐怖や不快感や居心地の悪さは時に人の好奇心をくすぐるという。僕はその不気味な看板に誘われて4階建ての古びれたアパートに入ることにした。看板の端に「301」と書いてあったのでとりあえず階段を上がる。蛍光灯は古くなって茶色く変色し、ちらほら見える空き家らしき部屋の窓からはカーテンがはためいていた。
「代官山という山の谷が渋谷だ。」そんな事を誰かに言われて妙に納得したのが思い出される。301は廊下の一番奥の街路側に位置し、渋谷方面を俯瞰して見渡せる。301に扉は無く、代わりに塩化ビニールの透明な膜がヒラヒラと垂れていた。その膜をめくって中へ入る。するとすぐ左には男がパソコンを覗き込んで座っていた。画面を食い入る様に見ていたせいか目は充血し、愁いに沈んだ様な顔をしている。ここにぴったりな男だと思った。
早稲田大学 創造理工学部建築学科 佐藤鴻