先手必勝

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近代以降の戦史の中で、「先手必勝」は良くも悪くも「日本のお家芸」と言われてきた。その経緯や是非については諸説あるものの、真珠湾攻撃はその代表格と言えよう。

宣戦布告をすると同時に相手を叩き、敵が態勢を整える前に勝負を決める-。上杉謙信が武田信玄に塩を送った逸話は有名だが、日本人はもともと、相手の弱みに付け込むことを極度に嫌い、お互いが全ての力を発揮できる状態で正々堂々と勝負をすることを潔しとする美学があった。こうした美学は、平安後期から鎌倉時代末期に至るまで、武士は一騎討ちの形で決着をつけてきたことにも見て取れる。

しかしこの美学は、相手も同じ価値観やルールを共有していて初めて成り立つ。13世紀の蒙古襲来当初、鏑矢を射て宣戦布告し、一騎討ちで勝負を決めようとした鎌倉幕府の軍勢に対し、元軍は容赦なく集団で襲いかかった。こうした「常識のない」戦い方をする相手に鎌倉幕府軍は当初大いに苦しめられた。以降、一騎打ちによって勝負を決める戦い方は姿を消していくこととなった。

歴史的な経緯もあり、「先手必勝」の戦術は日本人にとって心理的に受け入れにくい部分も多い。しかし、「常識」の定義が分からなくなった現代を生きる私たちにとって、その考え方には大いに学ぶべきところがある。

必ず勝てる態勢を整えてから勝負に臨み、勝利を収める…。この方がカッコいいに違いないが、万全の準備をしてから臨むことができる勝負は、実社会では実はそんなに多くない。仕事が忙しい時に素敵な異性と出会う、英会話に通い始めた矢先に海外赴任のポストが募集される。チャンスも競争相手も、こちらが万全の態勢を整えるのを待ってくれない。

何をするにしてもフェアであることは不可欠である。私自身、戦いを挑むなら正々堂々と挑み続けるつもりだ。しかし、どんな局面でも万人が共有できる「フェア」の定義などない。その局面局面で、それぞれの人が「フェアとは何か」「正々堂々とは何か」という命題に対して答えを出すことが、これからは一層求められることになる。即ち、何を潔しとして何を卑怯とするか、のラインは自分で引かなければならない。

帰国子女の同僚が、英語力に優れているという理由で海外赴任のチャンスをつかんだ時に「ずるい」と言うのはむなしい。先を見通して、高1からコツコツと受験の準備を進め、現役で志望大学に受かった仲間を「ずるい」と言っても仕方がない。先手を打つかどうかを決めるのは自分自身である。

自分の態勢が整っていない時は、相手の態勢も整っていない。これをどうとらえるか、は自分次第である。

他人の美学ではなく自分の美学で、正々堂々と先手を打てるようになろう。


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