第337回:避難訓練
柔道部寮で避難訓練があった。毎年一回やっているこの訓練。僕は入部こそ3年目だが、入寮してからはまだ1年目。自分の部屋からの脱出練習は初めてであった。ついこの間の糸魚川の件もある。他人事ではない。真剣に取り組んだ。
寮の各部屋からの避難は、エレベーターの横にある非常階段か、各部屋のベランダに設置してある非常はしごを使う。今回はみんなで階段を使って地上へ逃げる練習をした。その後、使い方の確認として1年生2人に非常はしごを使って降りるデモンストレーションをさせ、僕らはそれを下から見守った。5階から4階、4階から3階と一つ一つはしごを伸ばして降りてくるのだが、上から見るとその高さがなかなか怖いらしい。手足をプルプルさせながら恐る恐る1段ずつ降りてくる後輩たちの姿が可笑しくて、下から見物しているだけの気楽な我々は笑ってしまった。
それにしても、この細い金属製のはしごは何㎏まで対応しているのだろうか。100㎏前後の僕はたぶん大丈夫だろうけど、我が柔道部の誇る巨人2人、それぞれ140㎏には耐えられるのだろうか。可笑しなデモンストレーションをケラケラ見守る選手たちの中、心なしかその2人の表情は引きつっていた。
避難の基本的なルールとしては、炎に気が付いた人が火災報知器を鳴らす。各フロアに消火人という係が設定してあって、そいつが炎の程度によって消火するか逃げるかを判断する、ということになっている。僕はこの係に任命されているらしい。なかなか厄介な任務である。自分の部屋で火を使うことの少ない寮生活だから、僕のフロアから火が上がることは考えにくいけど、いざという時はみんなで火事場のバカ力を出し合って逃げ切りたいものである。