第354回:目黒川

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4月7日の夜、今年最初で最後の花見をしに目黒川に行った。定番中の定番だけど、寮から近いんだから仕方ない。近くに住んでいるうちに、せっかくだから一度は行っておかなきゃいけないポイントなのだ。

 

僕は本来、それほど花に興味のある人間ではない。どちらかと言えば「花より団子」タイプの人間である。小学生の頃、母に無理やり国立の桜を見に連れていかれた時も、桜なんて見上げもせずに「腹減った」とばかり叫んでいたら、えらく怒られた記憶がある。大学に入る頃になってやっと、まあ年に一度くらいは花を見上げてゆっくりするのもいいかなと思えるようになったものの、やっぱり持参した弁当や道端の屋台の方に心惹かれてしまうもの。いつまでたってもガキのままだ。

 

さて、僕らが目黒川に乗り込んだのは、正真正銘満開の金曜日の夜である。混雑は予想していたものの、実際はそれを遥かに上回る混雑ぶりであった。中目黒駅のホームがすでに真っ直ぐ歩けないほどの人口密度。改札を出たあたりではもうチマチマしか進めない。川に辿り着いたときには、通勤ラッシュの目黒線とさして変わらない状態である。

しかし、行ってみればそれだけの人が集まるだけの風景がそこにはあると分かる。川の両サイドの遊歩道から水面に向けて、あたり一面を花びらが覆い尽くしている。薄ピンクの提灯型のライトがそれをぼんやり照らす。眺めながら歩いていると、夢の中にいるようなハッキリしない、地に足が着いていたいようなフンワリした気持ちになる。そして、あまりにも見事な夜桜に包まれた時特有の、少し不気味な、この世のものではない者に会ってしまいそうな気配を感じる。流石の僕も、これだけの混雑に見舞われながらでも年に一度は訪れる価値のある場所だと思った。

とは言え結局は、ここぞとばかりに法外な値段を要求してくる沿道の屋台で色んなものを摘み食いしながら、桜シャンパンを煽った。雰囲気も相まって美味しかった。振り返れば花と団子のどちらがメインかは怪しいものだ。でもとにかく楽しかった。来年もまた行こう。