第353回:スカイツリー②

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僕らが350mの展望台に着いたのは5時半を少し回った頃。チケットを買ったりなんだりしている間に、幸運にも天気は少し回復していて、空に雲はあるものの、高度350m以下に霧や霞はなく、遠くまでキレイに街を見渡せた。この日の日没は6時。徐々に辺りが薄暗くなっていく時間、三谷幸喜に言わせれば「マジックアワー」で、新海誠に言わせれば「誰そ彼(たそがれ)時」である。

辺りが暗くなるのと反比例して、ビルや家に灯りが灯りだす。こんな風に街を俯瞰した時にいつも、そういう光の一つ一つの先に誰かの生活があることを想像する。そうすると、少しうんざりするようなホッとするような不思議な気持ちになる。自分より大変な思いをしている人もたくさんいるし、自分より努力している人もたくさんいる。また明日から頑張らないと、と思う。

グチャグチャに密集したその多くの生活の間を不規則に道路や鉄道が走り、不効率に川が通っている。売店で買ってきたビールをチビチビやりながらその絶妙なグラデーションの変化と、そこにある細々とした生活をボーッと眺めた。心休まる気持ちの良い時間だった。

だいた30分くらいかけ、その350m展望台をグルッと一周してから、下りエレベーターの出ている340mのフロアに下って、ガラス張りの床の上を通って地上におり、帰路についた。

人が多すぎて、高いところ特有の緊張感というか心地いい恐怖感のようなものはあまり感じられなかった。だけど、とりあえずスカイツリーってこういうものってのを味わった。今度はもう少し人が少ないタイミングで、もう少し晴れた時に、もう少しチケットが安くなってから、行ってみよう。そうしてまた人々の生活に思いを馳せ、少しウンザリしてホッとするのだ。