第377回:モンゴル滞在記①

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アジアクラブチーム対抗戦で、僕は初めてモンゴルに足を踏み入れた。入る前にモンゴルに対して抱いていたイメージは、柔道に関してはモンゴル相撲(とにかく密着して相手を持ち上げるスタイル)、国に関しては草原と砂漠と馬と羊だった。

 

日本に帰ってきて、このイメージを思い返すと、まず柔道スタイルに関しては間違いではなかった。奥襟やら背中やら帯やら、とにかく掴めるところを掴んで密着してくる。僕は、相手に比べて体重も軽いし、密着したら投げられる、ととにかく組手で間合いを取る闘いを強いられた。ウチの姉が実家の猫を無理やり抱こうとすると、猫は両手をピンと伸ばし全力で嫌がる。そんなせめぎ合いをイメージしてもらえば良い。

 

国に関しては少し違った。確かに、空港からウランバートル市内までの風景は砂漠と草原がどこまでも続いているイメージ通りだったのだが、市内は思った以上に都会だった。縦にも横にも大きいビルが立ち並び、飲食店やデパートがたくさんある。その間を縫うように大量の車が走り、道ゆく人々はオシャレだ。どこを見渡してもゲルや馬や羊は見当たらず、草原チックな景色ははるか向こうに見える山々くらいである。例によって僕の試合を口実にモンゴルまで足を伸ばして遊びまわっていた母曰く、そんなのはウランバートル市内だけで、一歩出ると大草原と砂漠だということだが、試合で来ている僕らがわざわざ市外へ遊びに行けるはずもなく、僕らにとってのモンゴルは「都会になりかけた街の埃っぽくゴミゴミしたイメージ」となった。

 

砂漠と草原の国なのだから当たり前のことだが、空気がひどく乾燥している。その上、ほぼいつだって渋滞している道路からのほこりや排気ガス、市に近接した火力発電所からのモクモクが凄い。更にこの季節だと気温がかなり低い。昼間太陽が出ていればそこそこ温かいけれど、朝晩は氷点下になり雪も降った。手洗いした洗濯物を外に干しておくと、翌朝凍っている。部屋に冷蔵庫は付いていたけれど、飲み物はベランダにおいておけばキンキンになるような状態だ。

要するに、呼吸器系にあまりよくない環境だったのだ。そして僕は呼吸器系が特に弱い。街を歩くときや寝る時など、可能な限りマスクを着けて過ごしたけれど、案の定少し体調を崩して帰国した。

 

試合会場は市内から少し外れた空港にほど近いところにあった。新しい立派な体育館で、ゲルをイメージしたのか、円柱形をしていた。中は暖房が効いていて、やはり極乾であった。