第413回:夏休み【秋田編】②
とりあえずナビに入れた目的地は青森県、十和田湖らへん。なんとなく景色が良さそうだったからだ。目黒からの距離はだいたい700㎞くらい。朝9時頃に出発して夕方になる前には着ける見通し。Mr.ChidrenのライブDVDをかけながら、ところどころ口ずさみながら、コンビニのコーヒーをチビチビ飲みながら、誰に気を使うでもない、一人ドライブを楽しんだ。
途中、宇都宮あたりのSAで休憩した時に行先を秋田に変更した。と言うのも、次の日、木曜日に白神山地でも登ろうかと思い付いたからだ。世界遺産だし、景色もよさそうだし、運動にもなるし、我ながらいいアイデアに思えた。十和田湖の方からだと、白神山地の方に真っ直ぐ行く道がなく、かなり遠回りになる。だから、その夜は秋田に泊まって、次の朝一で北上する計画だ。秋田には2年前の実業団大会で行っているが、当然団体行動だから、街の印象など何一つない。
秋田ではカプセルホテルのような、漫画喫茶に毛が生えたような、簡易宿泊所に宿をとった。こんなところに泊まるのも人生で初めてだ。これもたぶん一人ならでは。
このホテルについたのが17時前くらい。まだ日も暮れていなかったし、とりあえず周りをランニングすることにした。グーグルマップでだいたい10数kmのコースを頭に思い描いた。特に周辺に観光すべきようなスポットはないようだったから、近くを流れている川に沿って海に出て、海沿いをしばらく走ってから別の川沿いに戻ってくるようなコース。一人で予約もなしにいきなりチェックインした直後に、えらいスポーティな格好で出ていくもんだから、ホテルの受付のお姉さんの「いったいコイツは何しに来たんだ」気な顔に見送られ、スタートした。何をしに来たわけでもないのだから、そう思われて当然である。
天気が悪いのも手伝って気温は25℃ちょい。東京に比べたらだいぶ涼しくて走りやすい。途中、山道になった。車道は普通に立派なんだけど、歩道は狭くて横から植物がチクチク邪魔してくるような道だ。もちろん歩いている人もいない。車に乗っている人たちが追い越し際に怪訝そうに見ているのが分かる。走るには向いていないコースだ。グーグルマップじゃ分からないから仕方ない。
ちょうど太陽が沈む頃、海に出た。雲が厚くてどこに太陽がいるのかも分からなかったけれど、何となく向うの空がオレンジ色になって、こちらが暗くなっていった。誰もいない砂浜を、沈む太陽を背にしてしばらく走ってみた、砂は荒いくせにやたら足が沈むメチャクチャ走りにくい浜である。それでも自分の後ろに続いている足跡を振り返ると、何かの映画のワンシーンに見えなくもない。これで毛並みのきれいな大型犬と、それを連れた金髪美女が向うで待っていてくれたら、間違いないんだけれどね。
そんな風に道草くったり、道を間違えたりしながら、結局15㎞くらいを1.5時間かけて走った。着ていたものは当然汗でビシャビシャ。端々を絞って、ポタポタしないように気を付けてホテルに戻った。受付のお姉さんは、「こいつまさか海入った?」みたいな顔つき。
ホテルの大浴場で少しゆっくりしてから、秋田駅の方に繰り出した。