第414回:夏休み【秋田編】③
ホテルから秋田駅までは3㎞ほど。路線バスが走っているようだけど、1時間に1~2本。20~30分待つのも面倒だったから歩くことにした。これくらいの気温なら、僕だって歩く気になる。
歩きながら食べログで調べた比内地鶏を使った親子丼のお店で簡単な夕食を済ませてから、適当な飲み屋を求めて駅前をブラついた。優柔不断で、辺りをグルグルした後、結局寂れたビルの中に入っている、スナックのようなバーのような店に入った。一人でこういう店に足を踏み入れるのも初めてである。意外と緊張するものだ。扉を開けると、薄暗いカウンターの奥で、初老のマスターが一人でボーッとしていた。他に客はいない。いちおう「一人で、初めてなんですけど良いですか?」と尋ねてから、カウンターに座らせてもらった。
結局この日は、このマスターと二人で2時間ほど飲んだ。適当なハイボールをチビチビ呑みながら、適当な話をして、適当な話を聞いた。秋田の生まれ、秋田育ち、新卒で東京で数年サラリーマンをしたけれど、結局帰ってきて15年このスナックで働いているらしい。彼曰く、「東京は時間の流れが速くて、ゆっくり考える時間がない」らしい。ドラマや漫画で、聞いたことありそうなセリフを「そんなもんですかねえ」と適当に流す。そうこうするうち酔っぱらったママが店に出てきた。僕の母親よりも太っていた。ママ歴48年で、秋田の飲み屋界隈ではボス的存在だと自分で言っていた。
スナックのママって生き物には、大きく分けて二つタイプがいると僕は考えている。ザックリ言うと、上からモノを言ってくるタイプと、下から持ち上げてくるタイプだ。ちなみに僕は、どちらのタイプも得意ではない。会ったばかりの人にいきなり、上からモノを言われるのも持ち上げられるのも、「お前は俺の何を知っているんだ」と言いたくなる。僕はただ、説教もお世辞もない、対等な会話が好きだ。だけど残念ながら、そういう話ができるママとは会ったことがない。
もうお気づきだと思うが、この最後に登場したママは前者、上からモノ言うタイプだった。だいたい水商売が長い人にはこの傾向がある。「まだ若いんだから…」的な。そんなもんで、ママ登場から10分もせずに僕は店を出て、またトボトボと歩いてホテルに戻った。