第419回:夏休み【佐渡編】④

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向うは、兎にも角にも、一人で佐渡に来た理由に興味を持っていた。何で?何しに佐渡に来たの?先述の通り、特に目的も理由もなく佐渡に来た僕はもちろん上手く答えられない。それでも、一人佐渡に来てくれたと喜んでくれた。

店を経営している夫婦は、どうやら奥さんの方が佐渡出身で、旦那さんが結婚を機にこちらに移り住んだらしい。店員の女の子は、派遣で各地をウロウロしている中で佐渡に来て、気に入って住みついたらしい。なかなか愉快ないい人たちである。「今日は何したの?」と聞かれたから「ここら辺を走って、回転寿司食べました」と答えた。すると「もしかしてトライアスロンの人?」と聞かれた。なにやらこの週末、佐渡で大きなトライアスロン大会があるとのこと。言われてみれば、その日雨の中走っていても、ビショビショでホテルに戻っても、周囲の人の視線が冷たくなかった。冷たいどころか「お疲れさまです」みたいな雰囲気があった。やっぱり東京に比べて人間が暖かいなぁなんて勝手に思っていたけれど、そういうことだ。トライアスロン選手が会場に前のりして調整練習していると思われていたのだ。

「明日、何すればいいですかね?」と相談してみた。ある程度予想はしていたけれど、三人は「明日も雨だしね」と言葉を濁らせた。予報によると、明日は大雨だ。警報が出るレベル。この旅、天気にはとことん恵まれないようだ。

夜が深くなるにつれ、徐々にお客さんが増えてきた。まずはこのスナックにビールを卸している大手ビール会社の営業の人、近くで居酒屋を経営しているオジちゃん、佐渡出身の公務員で最近転勤で戻ってきた実家が酒屋の兄ちゃん、などなど。みんな見慣れない僕を見つけると「どこから来たの?」から「何で来たの?」を経由して「トライアスロン?」まで一通りのやりとりをして、理由もなく佐渡に若い奴が来た、と喜んでくれた。一人、最初から酔っぱらって店に来たおじいちゃんだけは「お前は昨日もここで飲んでたな!俺は見たぞ。」と言い張っていた。

酒が進んで、みんながだんだんと個人的な話もするようになってくると、ビール会社の営業の人が僕と同じ大学の先輩だと分かった。先輩はそれをことさら喜んでくれて、ビールを何杯か御馳走してくれた。改めて大学のネットワークの広さと、卒業生たちの同門愛に驚かされた。公務員の兄ちゃんは、目的もなく佐渡に来たということに凄く興味を持ったらしく、次の日の夜ご飯にまで誘ってくれた。

この先輩と兄ちゃんと電話番号を交換して、深夜1時頃、大雨の中ホテルに戻った。結構な時間だけれど、明朝何に急がされる訳でもないし、せっかくだから大浴場に行った。大雨の中、もちろん一人で露天風呂に浸かって、しばらく真っ暗な海を眺めた。今から思えば、シチュエーション的には絵になるかもしれない。でも、何か格好いいことを考えるには酔っぱらいすぎていた。ただボーッとノンビリして、部屋に戻った。