第493回:Second Kafka

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この前、「海辺のカフカ」を読み直してみた。何を隠そう、海辺のカフカは僕が初めて読んだ村上春樹の小説で、ご存知の通りズブズブのファンになるキッカケとなった一冊だ。

どんな小説かと聞かれると、すごく難しい。15歳の少年が家出をして、東京からアテもなく四国まで行って不思議な図書館に辿り着いて、不思議な人と会って不思議な体験をしながら少しだけ大人になる話と、幼い頃に不思議な体験をして少し壊れてしまった老人がトラックの運ちゃんと一緒に途方もない旅をする話で、その二つの話が所々で不思議なシンクロをしたりする。要するに、村上春樹の小説としては、よくある話なんだけど(少なくとも僕はそう思っているんだけど)、特にちゃんとしたストーリーとか明確な主張やメッセージ性はないのだ。それで何が面白いの、と言われるが、僕は彼の文章が好きなのだ。ごく控えめに言ってすごく回りくどく、もったいぶってる。1文で通じるところを1ページ使う。だけど何となく「言いたいこと分かる」と言うか「その感覚分かる」と言いたくなるような表現をする。その感覚が好きなのだ。たかがブログごときでいちいちそんな文章を書いていたら、1ページも捲られないままに誰にも読んでもらえなくなりそうだから控えているけれど、本当は彼のような文章が書けるようになりたいと思っていたりもする。

僕が初めて海辺のカフカを読んだのは、ちょうど15歳だった。たまたま主人公と同じ歳だったのだ。当時の僕は、高校に入学して間もなく、親元を離れて寮生活になり、いよいよ柔道漬けの毎日が始まった頃。突然家出をして、アテもなく四国に行って想像もつかないような体験をする主人公が、あまりにも自分とかけ離れていて新鮮だった。そんな生き方もあるのか、なんて素直に思ったりもした。

それから10年超、28歳になって読み直してみると、家出なんかしないにしても、自分の人生には冒険が足りていないような気がした。自分の全く踏み込んだことのない領域に、然るべき準備もしないまま、とりあえず飛び込んでみる、という体験が僕には足りていない。

こんなご時世だと夢のまた夢だけど、今度まとまった休みでもあれば、海外くらいまで足を伸ばして、言葉も通じない、アテもない途方もない一人旅でもしてみようかな、なんて。