第537回:静かなる非難
来月から新年度になるこの時期、大事なカード類なんかの期限切れに伴う更新作業があったりする。この前電話で「3月で切れるクレジットカードを更新しますか?」と聞かれたから、「する」と答えて、そういえば引っ越してから申請していなかった新しい住所を伝え、本人限定受け取り郵便で新しいカードを送ってもらうことになった。
数日後に郵便局のオジさんが、ちゃんと僕の新しい住所にそのカードを届けてくれた。数cm四方の小さな紙を渡して、「どこでもいいので、受け取った証明のサインをしてください」と言う。
些細なことだが、こういう時、僕は少し困る。なぜなら、致命的に字が下手くそだからだ。左利きって本来字が下手くそな生き物だけど(違いますか?)、僕の場合はその水準に輪をかけて下手くそだ。
だからこういった受け取りの時や、クレジットカード支払いの時のサインを求められると、その下手くそを誤魔化すために走り書き風なサインをすることにしている。「適当に書いたから、下手くそなんです。決してもともと下手なのではありません。」と間接的に伝える=誤魔化すのだ。
今回、郵便局のオジさんが求めてきた紙にも同様、走り書き風のサインを施して渡した。するとオジさんは、1秒ほどその紙を眺めてから、少し困った顔で「これは証明として1年くらい郵便局で保管するものなのでね、次はもう少し”ゆっくり”書いてくださいね。」と言った。「あーそうなんですね、すみません」と言ってソソクサとドアを閉めた。
おそらくオジさんは全てを見抜いていた。僕の字が致命的に下手くそで、それを誤魔化すために急いで書きました風を装っていること。その上で、”キレイに”とは言わず、”ゆっくり”と注意したのだ。見抜いた上に気を使われたわけだ。
思いがけず、圧倒的な敗北感を味わうことになった、土曜日のお昼であった。