第549回:逃げ出したい場面①

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決して自分を良く見せようという訳ではなく、僕はたいていの人には幸せでいて欲しいと思う。もちろんそこそこの人数嫌いな人もいて、その人たちの幸せを願うほど聖人ではないものの別に不幸になれと祈りはしないし、仲のいい人はもちろん、特に利害関係もない人くらいは皆幸せでいて欲しいと思うのだ。だから、誰かの”やらかした場面”とか”気まずいシーン”など、不幸、不運に出くわすと、どうしようもなく居心地が悪く、場合によっては悲しい気持ちになったりする。

先日ドライブがてらご飯を食べに江ノ島の方に行って、コインパーキングに車を止めた。そこで大学生らしき4人グループが出庫しようと四苦八苦していた。車を見るとレンタカーで、初心者マークまで貼ってある。おそらく免許取りたてで、仲間と江ノ島までドライブにでも来たのだろう。壁際の少し変な形をした車室に、頭から停めた車。一人が車から降りて「オーライオーライ」とバックの誘導をしている。危なっかしいなぁと思った瞬間、車室と壁の間にあるポールにぶつかった。そこから初心者にありがち、止まらず無理にバックを続け、メリメリメリとポールが車体に食い込んだ。外輪差というやつだ。うわ、嫌なもの見たな、と思った。せっかくの楽しいドライブが一瞬でドン底だろうなと思うと気が滅入った。俺が代わりに運転してやれば良かった、とまで思った。ご飯を食べ終えて駐車場に戻ると警察が来ていて、少年たちから事情を聞いているところだった。それを見て僕もまた一段と落ち込んだ。

数週間前、僕の通っているジムの下にある業務用スーパーで買い物をした。野菜と肉を適当にブチ込んだ鍋でも食おうと思い、その買い出しだ。レジで会計をしてもらっている時に、僕の一つ前に会計を済ませたオバちゃんが、買った商品を袋につめる最中、誤って卵を床に落とした。買ったばかりの10個入りの卵パックだ。プラスチック容器が床にブツかるパシャという乾いた音と、卵が一斉に割れるグシャという湿った音が一帯に響き、一瞬周囲がシーンとなった。手を差し伸べようか、手を差し伸べたところで何が出来るのか・・・などと躊躇している間に、オバちゃんは少し悲しそうな恥ずかしそうな顔で、そのパックを小さいビニール袋に入れ、ソソクサと店から出て行った。家に帰って、丁寧に殻を取り除いた後に、10個分の卵焼きなり卵かけご飯なりを頑張っておいしく食べたことをただただ祈るばかりであった。