第627回:三度目の正直②
そんな彼、3年前からちゃんと強くて、柔道スタイルがとにかく思いっきりのいい技を掛けまくるタイプだから見ていて気持ちがいいし面白い。加えて、彼は柔道にしろトレーニングにしろ、よく考えて取り組んでいる。そして(柔道家には少し稀なタイプかもしれないが)自分の考えを言語化するのに長けている。そしてよく喋る。だから毎大会・毎試合のたびに、「最近はこの技を練習していて、こういうバリュエーションでの攻め方ができるようになりました」とか「しばらく試合が空いたんでトレーニングを厚めにして筋肉量を増やしました」とか「次の相手、前回はこういう技で失敗したから、今回はこう攻めるつもりです」とか、色々と話を聞かせてくれる。んでもって、ちゃんと僕に事前に説明してくれた技とか攻め方で勝ってくる。本当に大したものだ。側で見ていると、強くなるべくして強くなっている、という感じ。ふと昔の、何も考えずに競技をしていた自分と比べて恥ずかしさを覚えたりもする。
さてこの全日本選抜柔道体重別選手権大会だが、彼はこれまで優勝したことがなかった。僕が初めて付いた2年前・去年共に優勝できる実力はあったはずなんだけど決勝で負けて2位。いつもあと一歩届かず残念という大会だった。
しかし今回は3度目の正直、やっと優勝することができた。最後まで妥協せずしっかりと自分の柔道を貫き通して勝ち切った優勝だった。日々の練習やトレーニングの、一番辛いところを共有していない僕だけど、この優勝は心の底から嬉しかった。ここだけの話僕は、自分が柔道を尽く挫折した経験から、誰かの勝利を単純に喜べないところがあった。そんな僕がこの優勝は嬉しかった。決勝終わってそのまま表彰式で、泣いている彼を見ていると僕も泣きそうになった。
パリ五輪に向けた代表争いという点で言えば、彼は今、首の皮一枚の可能性を残している状態だ。なかなか厳しい戦いが続いていく中、最後どういう結末になるのかこれからも比較的身近で見守っていきたい。