第698回:エサ
「あれはご飯じゃない、エサだと思う」この前食事をした女性がそう言った。
いわゆる牛丼チェーンと呼ばれる、早い・安いを謳っているファーストフードについてだ。続けて、自分は必要性を感じないから食べたことがないと彼女は言った。
どうフォローしてもムムッと思う方がいるかもしれない。ただ、彼女は決して悪口や嫌味として言っているわけではなく、本当になぜ行くのか、理解できないらしかった。言われた僕もそういうお店には本当によくお世話になっているし、むしろ彼らに図体を大きくしてもらった部分もある。けれど不思議と嫌な気はしなかった。どこかしっくり来るというか、なるほどと思ってしまう部分があったから。
「なんで数ある選択肢の中で牛丼チェーンに行くの?」と真面目に聞かれたら、どう答えるだろうか。これまであまり深く考えてこなかったけど、やっぱり早く・安く、かつ自分で作るよりも遥かに楽にご飯が食べられるからだ。要は“効率的に腹を満たす”ためだ。個人的には十分に美味しいと思って食べているけれど、特別味を求めてはいない。
だから、たとえば自分でご飯を作るのが苦にならない人だったり、お金と時間に余裕があって良いお店の食事だけで生きていける人だったり、あるいはそもそもただお腹を満たすことに興味が薄い人だったり、にしてみれば「行く必要ある?」になり得るのだ。そんな人たちが、“効率的に腹を満たす”を少し捻った言い方をした時、エサというのも、なるほど的を射ていると思えた。