第730回:復帰戦もしくは引退試合④

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僕らの初戦は8試合目。5人制団体戦だから40試合後。ただ、いちおう僕らはシードの扱いで、3試合目に初戦の相手の1回戦がある。その1回戦で勝った方が僕らの初戦の相手になるわけだ。とはいえ、その優勝候補のチームが勝つのは目に見えていたので、とりあえず自分の相手がどんな柔道をするのか研究するために試合は見る。

さて試合を拝見したところ、前日プログラムのデータから想像していたものと比べると、そこまで危険そうな選手ではなかった(言葉を選ぶのが難しいが、察してくれると嬉しい)。一緒に見ていたチームの仲間からも「あれ、これ藤井が勝たないといけないじゃ?」という雰囲気が少しばかり出てきて、それまでとは180度逆の怖さが生まれてきた。

初戦の相手の試合を見終わってから、試合に向けたアップ練習をした。意識したのは「とりあえず息は上げておくけど、指とかが痛くならない程度に、限られたスタミナを消耗しすぎないように」。昔みたいにアップ練習してしまうと、そこで出し切ってしまう勢いだから、とにかく気をつけて。

13時頃になって、ようやく出番。開会式が終わったのが10時前だったからずいぶん長いこと待たされた。柔道の試合って、待ち時間長いだよね、って思い出した。アップ会場でピシッと道着を着て、みんなで会場まで歩いて、畳に上がる前にみんなで整列して礼をして、開始線に並ぶ。その間、いちおう相手の目はずっと見つめておいた。こちらから目を逸らすと、なんとなく気持ちで負けた気がして、現役の時からの僕の個人的なルールだ。今の自分は、気持ちで勝つとか負けるとか、そういう次元で戦っていない気もしもして、ある意味冷静に相手の表情なんかを見ていると、緊張を感じたそりゃ緊張するよな。24歳で、向こうから見た僕は「負けちゃいけない相手」のはずだ。そういう相手との試合って緊張するだよね。こんな風に相手の気持ちを冷静に考えるなんて、現役の時はできなかったな。僕の方こそ割といつも緊張していたから。

 

(次回、来月頭に後半掲載します)