第731回:復帰戦もしくは引退試合⑤
全体での礼が済むと、両チーム先鋒だけ残して畳を降りる。前日の夜の作戦会議で「(気合いを入れるために)試合前、背中叩いてください」と先鋒の奴に頼まれていたから、試合場の外でビシッとしてやった。
次鋒の僕は次が出番だから、そのままベンチには座らず、先鋒の試合を見守りながら畳横で足をブラブラさせておく。そう、柔道家って、試合前、足をブラブラしている生き物なのだ。いちおう左右の足払いの動き。「なんで?」と聞かれたら、おそらく「身体が固まらないように」だが、もはや全柔道家に共通する”クセ”と言った方が近い。クセだから、試合前だけでない、そこらへんで突っ立てる時もついついブラブラしてしまう。このクセをこじらせた奴は、街ゆく人に足を引っ掛けたくなる。街でそういう人間を見かけたら、柔道家か、と思ってもらえるといい。ついでに耳も見て、潰れてたら柔道家確定だ。
しかし、このブラブラも僕としては久しぶりすぎて、一瞬「どうやってやるんだっけ?」なんて思ったし、やってみてもなんだかぎこちなかった。「あれ、こんな感じだったっけ?」と。なんだかとても下手くそな気がして、恥ずかしかった。けど、ジッとしておくのも気まずいしなぁと思って、小さめにブラブラしておくか・・・。そんなことを考えているうちに先鋒の試合が終わっていた。特に惜しい場面も、危ない場面もなく淡々と引き分けだった。一番最近引退した奴だったけど、後半はさすがに少しバテて見えた。まぁそうなるわな。先鋒終わって0-0。さて次鋒、僕の出番。