第166回:アジア選手権
4月20日土曜日タイ・バンコクで、アジア選手権+100kgの試合が行われ、優勝することが出来た。試合前には、大会の大きさにとにかくビビりにビビりまくっていたのだが、いざ自分が優勝してみると、そこまで大きくはなかったのでは、と思えてくる。つまりまだちょっと自信を持つまでには至れずにいる。でも大丈夫。優勝して400ポイントももらったし ( 世界ランク20位くらいになるようだ )、前説とは違って賞金こそ出なかったものの、僕にとって凄く大きな意味を持つ大会、そして結果となったことに違いはない。
うん、まぁ賞金こそ出ないものの・・・ね。
タイに一週間滞在して、感じたこと、面白かったこと、学んだこと、がたくさんある。といっても今から書くのはタイ旅行記ではない。タイの文化に触れる機会はあまり無かったとはいえ、それでも書きたいことはたくさんあるわけだけど、やっぱり今回は試合について書こう。他の、愉快な旅行記はまたの機会に。
一回戦は台北の選手。世界ランク167位。見た目、体は僕と同じか若干小さく、北東アジアの顔で坊主頭。まるで日本の高校生みたいな感じ。実際に組んでみると力が強くて、左右両組手で技を出してきた。初戦ってこともあってなかなか技が出せずマゴマゴしてる間に、相手が 「 大外刈り 」 を掛けてきて自分で潰れた。その時僕の 「 釣り手 」 が偶然相手のあごの下に入っていたから、やったことも無いような 「 絞め 」 をやってみる。入っているのかどうかも良く分からなかったが、相手は苦しそうな顔をして 「 参った 」 をした。一本勝ち。世界は広し。色んな選手がいる。その中には僕に締められる選手もいるということだ。締め技で勝ったのは、16年の柔道人生、これが初めてである。
二回戦、カザフスタンの選手、世界ランク47位 ( 一応言っておくが、この時点で僕は世界ランクに入っていないわけだ )。身長は僕と同じくらいだけど腹周りは二まわりくらい大きい。かなりオヤジっぽい顔。「 相四つ 」 で、お互いに 「 釣り手 」 を落としあって、なかなか決定的な技を出せないまま終盤へ。中盤から何度か掛けていた 「 大外刈り 」 のフェイントから 「 支え釣り込み足 」 で有効を取る。その後1分くらい少し下り気味になってしまい 「 指導 」 を受けるが、そのまま逃げ切り優勢勝ち。有効を取った時にあと少しで 「 抑え込み 」 に行けたのを逃したこと、「 相四つ 」 に対して技のバリエーションが少ないこと、ポイントを取った後に下がったこと、多くの課題が残る試合だった。
準決勝戦、この日最大の山場、韓国の選手。世界ランクは8位。身長は僕より低く、体重も若干軽いと思う。すばしっこい組み手や 「 担ぎ技 」 を数繰り出して 「 指導 」 を取っていくタイプの選手。何より、3年前の韓国ジュニアの準決勝で、その 「 担ぎ技 」 にやられて僕が負けた相手である。合同合宿もしたことがある。そんなこんなでお互いに組み手で相手の技を封じ合うような展開となった。特に惜しいという場面も作れず両者 「 指導 」2のままゴールデンスコアへ。ここからが実に長い、魂の削り合いみたいな試合になっていく。
GSは本戦と同じようにズルズルと続き、お互い体力は限界、気力で戦っているのがよく分かる。だんだん踏ん張りが利かなくなってくるし、行かなきゃ行かなきゃと思っても足が出ない。GS開始から6分半、相手の 「 掛け逃げ 」 気味の 「 背負い 」 を足で止めて、その足をそのまま相手の股下に突っ込んで跳ね上げた。「 内股 」 一本勝ち。
説明が遅れたが、ゴールデンスコアに関しては今年から新ルールが適用された。時間無制限でサドンデス、旗判定は無くなった。ポイントを上げないと終われない。見ている方は面白いかもしれないが、経験者から言わせてもらえば、これは地獄のようなルールだ。
ともあれ、この気力だけの戦いに勝利できたのは、相模高校での地獄の練習の賜物である。と思いたい。
決勝戦、前述の韓国選手よりは劣るがトーナメントの反対側の山で一番強いとされていたモンゴルの選手を倒して上がってきたキルギスタンの選手。身長は僕よりけっこう高く、腹が出ていて多分140㎏くらいあるタイプ。「 喧嘩四つ 」 で 「 釣り手 」 は背中を取ってきた。「 引き手 」 はしっかり持ってくるので、寄せられないように 「 釣り手 」 で間合いを取っておけば自分の形で戦うことが出来る感じ。最初は相手も元気で組み手をバチバチ切ってきて、何度か相手の形にもなり技も受けてしまった。それでも時間が経つにつれて間合いができてきて、「 引き手 」 は完全に勝てるようになった。何度か 「 内股 」 や 「 小外刈り 」 で警戒させておいて、最後は 「 体落し 」 で一本勝ち。優勝。日の丸の上がるのを見、君が代を聴いた。
「 国際大会に出るチャンスってのは、そうそう与えられるものじゃないからな。お前は死に者狂いでそれを活かしていけ 」
と試合前、井上康生監督に言われていた。何とか期待に応えられてホッとしている。ただ勝った時いつも意識すること。負けて練習するのは当たり前、勝った後さらに上を見てまたどれだけ必死にやっていけるかが大事。この結果を自信にして過信せず、また一から頑張っていきたい。
応援して下さった多くの方々、本当にありがとうございました。
決勝 「 体落し 」↓
新ルールで審判は一人 ( 副審なし )、試合場が広くなり赤白の開始線はない。
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳