第167回:ビジネスクラス症候群

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タイ・バンコクからの帰路、僕は人生で初めて飛行機のビジネスクラスなるものを経験した。井上康生監督が選手への御褒美として、男子個人戦で優勝した選手と団体決勝戦でポイントを上げた選手、計5人でジャンケンさせて、勝った一人と航空チケットを交換してくれたのだ。勝った一人というのが僕。

僕みたいな比較的体の大きい人間にとって、エコノミークラスで長時間飛行機に乗るということは、みんなが思っている以上にキツいもの。更に僕の海外渡航経験はほとんど柔道関係だから柔道集団で乗る。隣に自分みたいなのが当たった日には、もういっそ通路に座ろうかと悩んだりする。一歩間違えれば、本当にエコノミー症候群まっしぐらだ。

そんな僕にとって、ビジネスクラスがいかに快適な環境だったかは言うまでもない。たいして長くもない足はピンピン伸ばせるし、背もたれはギャンギャン倒せる。肩幅を調節したり斜めにする必要も無いし、テレビも良い位置にある。文句の付けようが無い。

しかしこんな僕だからこそ感じる副作用もある。まず、ソワソワしてしまう。何となく落ち着かないのだ。周りにはいかにもって感じのジェントルメンしかいなくて、僕はどこからどう見てもやっぱり浮いていた。
出発前夜あまり寝ていなかったから、シートをバッタリ倒して寝てしまおうかとも思ったけど、機内食を逃したら一生の不覚と自分に言い聞かせ、何とか踏ん張ったりもした。いざ食事が運ばれてきたら一瞬で平らげて、隣のオジイサンがパンを残しているのを勿体なさそうに眺めたり、とにかく挙動不審だったと思う。食べ終えてトレーを下げてもらった後に、少し離れた所のオジサンがご飯をお代わりしているのを見て、それができるなら先に言ってくれよ、とスチュワーデスを恨んだりもした。
離陸して数時間すると、このクラスでも 「 座りながら出来る体操 」 みたいなビデオが流れる。ゆったりとした席に座りながら、意外とそれを熱心にこなす爺さん達が何人もいて、普段の僕達の気も知らないで、と歯噛みした。

そんな風にして、何だかんだ初ビジネスクラスを満喫しながら約6時間の旅を終え、成田に無事到着。僕の代わりにエコノミーシートに耐えて下さった井上監督にお礼を言って、いつか自分も自分の力でビジネスクラスに、と決心したタイ旅行であった。

更新:2013-05-03
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳