第101回:これからのAO入試(8)
大学の「位置」そのものの変化
これからのAO入試の最後として、今回からは大学の「位置」そのものの変化について論じてみようと思います。
大学の「位置」そのものというのは、社会における大学というものの位置、存在、価値観ということ。現在の大学の「位置」というのは、約50%の高校生が進学し、卒業したら、「大卒」しか募集していない企業に入社できる、正確には入社試験を受けることができる場所である、そういったものと考えられます。しっかりと教育する大学もみられてきましたが、どちらかというと人生の中のモラトリアム、遊ぶ時期ととらえられ、多くの学生が受験生時代とは一転、のほほんと過ごしていることでしょう。
しかしながら、そういった大学の社会的な位置が変化してしまったら、大学はそしてその入り口となる入試、その一つであるAO入試それぞれはどうなってしまうのでしょうか。もともと大学は、一部のエリートが通う場所でした。働かずに、高い学費を出して学ぶという行為は、一般的な人々には不可能でした。が、高度経済成長の中、比較的家庭が豊かになっていくにつれて、子どもを大学に通わせようと考える家が増え、大学進学率は今に至るまで一貫して伸び続けました。
「受験人口の変化から考えたAO入試のこれから」では、その後大学進学率が上昇していくことを前提に話しましたが、その逆もありえなくはありません。もともと「高い給料がもらえるから」という経済合理的な観点から大学進学率が伸びた面もあり、「高い給料」がもらえないならば、大学にそもそも行かせなくなる可能性があります。最近の規制緩和により、日本には契約社員と呼ばれる、時給労働者が急増しました。ドラマでも有名になった「派遣労働者」というのも契約社員にあたります。具体的な人数がどれほどなのか分かりませんのであくまでも推測の話ですが、最近の不景気のあおりもあって、これまで月給労働者である正社員が行っていた仕事を時給労働者である契約社員が行うようになってきているように感じます。それはスターバックスのみならず他の会社でも同じなのではないでしょうか。
もともとエリート教育、研究者育成の機関であった大学が大衆化した時、社会的にどういった役割を果たせばよいのかは、まだ定まっていません。そのため、実際同じ人が、高卒で働き出したのと、大卒で働きだしたのとでは、企業が認めるほど大きな違いは存在しなくなっています。つまり、できることなら、大卒の正社員の数は少なくし、契約社員ができることをなるべく増やそう、あるいは契約社員でいる期間を長くしようと企業は考えます。契約社員はアルバイトからでもなることができる、すなわち高卒でもなることができます。そういった契約社員の方が増えていくと、大卒で入った人も正社員ではなく、契約社員のような職につくことを余儀なくされていきます・・・が、高い学費を払った割に、高卒の人とあまり給料が変わらない。この状況に直面した人は、子どもの進路に関してどのように考えるようになるでしょうか?
(次回へ続く)
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