第65回:ゆとりろ2

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 こんにちは。この間、初めて飯田橋にある東京大神宮と神楽坂付近を散策しました。下町の風情が楽しくって、きょろきょろと辺りを見回しながら歩いていました。全く知らない東京の一面を垣間見ることができて小旅行気分でした。

 さて、今回のコラムは前回に引き続きユトリロについてです。ユトリロの作品を見ているうちに、気づいたのはどの作品も街の一部分を切り取って描いていることです。遠くから見た街ではなく、画家の視点が歩行者と同じなので、まるで見ている方もその街の中にいるような錯覚に陥ります。見上げたらパリの夕焼けが見えそうな感覚になる作品もありました。ここに載っている絵は「カルボネルの家、トゥルネル河岸」です。ポスターに使用されていた絵です。

 前回、ユトリロはアルコール中毒だったと書きましたが、彼はそのせいで親からも妻からも鉄棒付きの窓がある部屋に閉じ込められ、絵を描かされていました。彼はお金を生み出す機械のように見なされて、自由な生活を送ることはほぼなかったようです。それでも、街中の風景を切り取ったような作品を描くことができたのは、写真などを通して想像していたからだとか。彼にとっての街の風景は、壁一枚しか隔てていないけれどもとても遠いものだったのでしょう。ひたすら街の何気ない街の建物や通りを描いていたのは彼の外に出たい、自分の目で街を歩きたいと言う欲望なのかもしれません。

 いくつかの絵を近くでよく見ると、木の枝や建物の窓枠など、絵の具を厚く塗ってある箇所があります。その箇所には絵の具の色の濃淡ではなく、厚く塗ったことによる影ができていました。いろいろな工夫を凝らしてリアリティーを出していて、それもまた彼の絵に見ている人を引き込むような魅力を与えている気がします。全く知らない画家で、電車で見た中吊り広告に惹かれて訪れた美術展。とても良かったです。素敵な画家を新しく知ることができたし、彼の人生を知れば知るほど、いろいろと考えさせられました。

 それでは、また来週!

早稲田大学 国際教養学部 小林 綾