第10回:オタクのための料理
今、僕の手元に、「Cooking for Geeks」という本がある。
一風変わった料理の本で、Geek(アメリカの俗語で、いわゆるオタクや、何かのプロフェッショナルのこと)のための料理本、というタイトルだ。出版しているのも、Makeという、DIYや工作、プログラミングなどの創作カルチャーのモードと出版を請け負う会社。
書店でこの本を探そうと思ったら、陳列されているのは「料理」のコーナーではない。たいてい、「電子回路」「組み込み工作」「コンピュータ」などのコーナーにこの本は置いてあるだろう。
そういう、ある種料理とかけ離れた人々を対象にした、この料理本では、「食材の特性」「料理と時間の関係」「温度による化学物質の変化」などといった、いかにもギークな項目から、「料理をするときの心構え」「食器は、調理器具はどれほどあればよいか?」といった、料理をあまりしない人のためのトピック、「かんたんクレープ」「パンの伝統的な作り方」「サーモンのオリーブオイル煮」などといったバリエーション豊かなレシピまでが掲載されている。僕にとっては手放せない良書だ。
この本を読んでいて、はっきりと感じるのは、「異分野の経験を応用することの、大事さ」ということである。
僕はプログラマーでもあるから、料理をしているときに、プログラムの流儀を使って料理をすることがある。たとえば、料理の部品(ローストした鶏肉、何にでも合うドレッシング、刻んだ生野菜)などを別々に作っておいて、それらを組み合わせて料理を作るという手法。これはプログラミング手法でいう「オブジェクト指向」という考え方に発想をもらったものだ。
コレにかかわらず、多くの物事で、それに携わる自分の、全く異なる異分野の経験が役に立つことは良くある。そうでなければ、あらゆる仕事は機械にとってかわられるはずだ。自分がやってきたことを、全く新しいことをはじめるときに、どう活かしていくかということ。
それを考えるために、この本が言っていることは、こうだ。
「料理をはじめる前には、”必ず”最初から最後まで、レシピをしっかり読んでほしい。そして、レシピを読み終わったら、それに囚われることはないのだ。」
この言葉も、何にでも言えることだ。