洋々卒業生now! ~総合型選抜による大学進学と、その後のストーリー
総合型選抜は、志望動機や大学で学びたいことを真剣勝負で問われる入試。受験生は準備期間を通して、自分の将来やりたいこと、自分の思い描く大学生活とはどのようなものか?といった問いに、とことん向き合うことになります。
しかし、大学への入学はあくまでも「スタート」。大切なのは、入学してから充実したキャンパスライフを送ることです。
「総合型選抜で入った先輩たちって、本当に思い描いたキャンパスライフを過ごせているの?」
「志望理由書で書いたことって、本当に学生生活で実現できるの?」
そんな疑問にお答えするべく、総合型選抜で大学に合格した洋々卒業生を取材しました!
今回取材を受けてくださったのは、国際基督教大学(ICU)環境研究専攻・文化人類学副専攻の三好里奈さん。2020年に同大学に入学し、現在は4年生。視覚に障害をお持ちで、点字や音声を使って勉強をしながら、同時にサークルやボランティア活動にも積極的に参加されています。
「大学で多様な価値観の存在を知り、大きく世界が広がった。」という三好さん。国際基督教大学でどのようなキャンパスライフを送っているのでしょうか?
国際基督教大学 在籍(4年生)
筑波大学附属視覚特別支援学校 卒業
――本日はよろしくお願いします! 現在はどのような活動をされているのでしょうか?
現在は主に大学院進学に向けた準備をしています。ちょうど研究計画書を書いているところなのですが、京野菜にすごく興味があって、いろんな論文や本を読んだり、YouTubeやPodcastで情報収集をしています。大学院では、持続可能な京都の農村開発への貢献を目指し、生産者と特に「若い消費者」をつなげることを、文献調査、フィールドワークやワークショップを通して試みたいと考えています。
他にも、友人が始めたプラントベースフードのサークルに入っていたり、今は引退したのですが、アカペラ・サークルに所属していたり、国際基督教大学(以下、ICU)の近くの小学校で点字の絵本の読み聞かせのボランティアをしたりしています。
ちなみに7月には、バンクーバーのThe University of British Columbiaに留学する予定です。
――三好さんがICUの総合型選抜を受けた経緯を詳しく教えてください
私が所属していた高校は二年生の夏に大学のオープンキャンパスに行くことを推奨していて、そこでまず、「あ〜、考えないといけないのか〜」と思ったんですね(笑)。当時はそこまで行きたい大学が無く、私自身は消極的な感じだったのですが、それとは反対に親や先生は結構ICUを勧めてくれていて、それなら、ということで、最初は候補の一つとして見に行きました。
それで実際にキャンパスに行ってみたら、まあとっても居心地が悪くって(笑)。でもそれはICUが悪いとか私が悪いとかではなくて、要するに、合わなかったんですね。積極的で自由なICUと、大して積極的でもなく、自由をそこまで強く求めていなかった当時の自分が、端的に合わなかったのだと思います。
しかも、ICUの学びはリベラルアーツで、学部が1つで専攻が31個あります。その選択肢の多様さも、当時の私には「結局何をやっている大学なのか分からない」という印象につながってしまっていました。その他にも様々な要因があったのですが、それで「行きたくないな」と思ったのが、実は最初の印象でした。
――そうだったのですね。現在様々な活動に積極的に参加されている三好さんからすると意外です。そこからどのようにしてICU受験を決めたのでしょうか?
そうですね、先ほど述べたような印象を持っていたため、私自身は当初は他の大学を考えていたのですが、周りの人や先生が「ICUいいんじゃない?」と事あるごとに勧め続けてくれていて、そのような状況の中で、高校2年生の1月から短期留学でタイに行くことになりました。私にとって初めての留学で、本当に色々な経験をして、自分を大きく見つめ直すきっかけになったのですが、特に印象に残っている出来事があります。
ある朝、現地の盲学校に登校したのですが、なぜか朝礼が終わっても朝の授業を受けさせてもらえませんでした。私は「授業に行きたいな〜」とそれとなくアピールしていたのですが、盲学校の先生は「とりあえずこの職員室の椅子に座っていて」といった感じで全然取り合ってくれず、只々時間が流れていくばかりでした。
「おかしいぞ」と思った私は、自分は何のためにここに来たのか?ということを改めて自分自身に問いかけてみたんですね。現地の生徒と交流したり、授業に参加して、言語は分からなくてもタイの文化やタイの言語に触れることがそれだと思った私は、先生に、何回もアピールし続けました。「授業に行きたい!」「英語の授業は午後だからまだよ」「いや、今です、今今今。英語じゃなくてもいいんです!」。
当時の私は今より英語に触れる機会も少なかったですし、向こうも英語がネイティブではありません。加えて、私はタイ語が殆どわからない、という状況だったのですが、ジェスチャーや簡単なフレーズを使って何回もアピールし続けた結果、ついに教室に行くことができました。
これだけではなくて、他にも似通った経験をいくつかして、後からまとめてそれらの経験を振り返ってみると、そういった時にこそ、自分自身の積極性が現れていたのだな、と気づいたんですね。普段は消極的な自分だけれど、自分の隠れていた積極性や好奇心で周りに働きかけて、周りを変えて、自分のしたいことを成し遂げた。そういう達成感がその時にはありました。
そのような経験をしてタイから帰国して、ICUの春のオープンキャンパスにもまた行ってみました。そうしたら「合わない」と感じた夏の時とは180度印象が違って、びっくりしたんです。模擬授業で手を挙げて発表して、自分の意見が伝わったことが嬉しかったり、隣の席にいた初対面の高校生とディスカッションをして、慣れない英語で話が伝わった時の喜びとか、意見を聞けることの喜びとか、そういうのを感じました。
他にも色々な大学を見たのですが、改めてそれらも踏まえ、やっぱり「ICUがいいんじゃないかな」と思って、受験することに決めました。
――なるほど、紆余曲折あって志望校をICUに決めたのですね。洋々にはどのような経緯で入塾されたのでしょうか?
高校3年生の4月に、まず学校の進路担当の先生に「ICUを第一志望で受けます!」と宣言して、一学年上のICUに通っている同じ高校の先輩にも連絡しました。そうしたらその先輩が洋々に通われていた方で、洋々を紹介してくださり、両親やGMの方とも相談して、通うことに決めました。
――洋々のサポートや思い出で印象に残っていることはありますか?
そうですね、メインの進学サポートの面ではないのですが、毎回一人で渋谷に来るときは駅まで事務局の方が送り迎えしてくださったり、メンターの方と書類作成のサポートに入る前に、お茶を飲みながら雑談をしたりしたのも、ささやかですが、いい思い出です。
メインの志望理由書の作成は、きつかったですね…。当たり前なのかもしれないけれど、「自分と向き合う」ことは、凄く大きな意味があった一方でとても大変でした。「自分がどのような人間なのか」というのは、当時はもちろん分からなかったし、今も完全にわかっているとは言えないけれど、その分からない問いに自分なりの答えを出して、しかもそれを文章にして他人に説明しなければならない。
メンターやプロの方も私の背景や状況を理解してくださった上で、たくさんアドバイスをくれてとても有難かったのですが、講師の方々からの問いが凄く深くて、考え込んでしまって、時間内には答えが見つけられなかったこともありましたね。そのまま帰って、寄宿舎でも考え込んで、というのを何回か繰り返していました。
――AO入試を通じて洋々で得た学びが今の自身の活動にどのようにつながっていますか?
洋々に来る前からそうだったのかもしれないのですが、自分について考える時間は割と持っている方で、普段から湯船の中で一日を振り返ってみたりしています。そのため、洋々に来てからそうなったのか、はっきりとはわからないのですが、「自分ってこんなに好奇心旺盛だったんだな」というのは、気づいたことかもしれません。「積極的だね」と周りから言われることもあるのですが、それも自分を見つめ直す過程で、そう自分自身が気付いていったのだと思います。
――ICUに入学してみて、実際の雰囲気はどのような感じでしたか?
私が入学した年はちょうどコロナ禍で、授業が全てオンラインでした。それもあって、ICUに入学して本当に良かった、と思ったのは1年生の秋頃で、少し時間差がありましたね。
もちろん、オンライン授業にも良いところと悪いところがあって、私に限って言えば、振り返ってみるとオンライン授業も良かったな、と思っているのですが、やっぱりオンラインは対面に比べて人との関係性が薄くなってしまいます。パソコンに向かっているだけではICUの良さも悪さもそもそも受け取り切れていなくて、それで気づくのが半年間遅れてしまったのかな、と思っています。
――1年生の秋学期にどのようなきっかけがあり、ICUの良さに気づいたのでしょうか?
1年生の秋学期になってもまだまだ対面の授業は少なかったのですが、秋学期からICUの寮に入ることができました。ICUの寮はキャンパスの中にあるんです。それで実際にICUに「住む」ことになって、それでだいぶICUのことが分かってきた、という感じでした。
ずっと外から見ていたICUと中で暮らして見えてきたICUでは、全然見え方が違いましたね。特に、それまで自分はあんなに小さい世界であんなに些細なことに悩んでいたのか、と思うくらい、世界は広くて多様なのだ、ということを感じました。
どういうところからそれを感じたのかというと、まず、私はずっと盲学校に通っていたこともあって、「障害がある人とそうじゃない人」という二元論的な見方で物事を考えてしまうところがありました。今でもそれは完全には払拭できていないと思うのですが、でも、ICUに入学してみると本当に色々な人がいて、海外経験が長い人もいれば、数学が大好きとか、生物が大好きとか、歌うのが好きとか山登りが好きとか、ジャンルは違っても何かに熱狂的に打ち込んでいる人がたくさんいて、皆価値観もとても多様で、私ももっと自由に色々なことを考えて良いんだな、と思うことが出来たんです。
「障害を持っている」と思うから、自分の出来ないこととか恥ずかしいことなどに、ついつい目が行ってしまうけれども、でもその障害があったからこそ身につけられたこともたくさんあると私は思うんです。「障害がある」ということは、そういった多様な個性の一つに過ぎないのだから、そんなに過度に落ち込んだり、自暴自棄になったりしなくていいんだな、と思えるようになって、今ではICUの多様な授業や寮での出会いなどを通じて、色々な価値観を知ることがとにかく楽しい、と思えています。
それに、今では卒業するときに、ICUのあらゆる道という道が思い出になるんじゃないか、というくらい、一人でキャンパスを歩いていても、例えば「ヤッホー!」と友達が話しかけてくれますし、逆に静かな時には、鳥の声が聞こえてくる中、一人で芝生に寝転んでいたりとか、すっごく居心地の良いキャンパスです。
――今後の展望について教えてください。
冒頭にもお話ししたように、大学院への進学を考えているので、まずはその研究を深めていきたいと思っています。京野菜が対象なので、京都市でフィールドワークなども出来たら良いな、と考えています。
――では最後に、総合型選抜の受験を考えている受験生たちにメッセージをお願いします。
決めつけてしまうのも良くないかと思いますが、「受験の準備が楽しい!」と思っている人は比較的少ない気がしていて、それぞれの悩みや苦しみがあると思います。でも、どういう形になるかは分からないですが、今準備していることや考えていることは、きっと何らかの形で、学生生活やその先に活きてくるはずです。なので、時にはそれを思い出しながら、今は目の前のことを、頑張ってみてください!
2023年6月 於 洋々
金治直美 著/文
『指と耳で見る、目と手で聞く―視覚障害・聴覚障害のある人の暮らす世界 (なるにはBOOKS別巻 )』(ぺりかん社、2022年)
今回洋々のインタビューをお受けくださった三好里奈さんが、話し手として参加されている書籍です。視覚障害・聴覚障害について、体験談とともにわかりやすく且つ丁寧に紹介されています。中高生から大人までお勧めの一冊、ぜひお手に取ってご一読ください!
内容紹介(出版社より)
目が見えない、耳が聞こえない人たちが体験している世界って、どんなだろう? 先天性と後天性のちがいは? 点字や手話、パラスポーツ、特別支援学校の実際、盲導犬や聴導犬、ないと困るグッズまで、視覚障害・聴覚障害のある人たちの日常を伝える一冊。