第23回:エネルギー補給工場
先日松屋で牛丼を食べながら僕の脳内で展開された話を書く。
午前11時。朝ごはんを逃した僕は経済的・時間的理由により松屋に入る。店内に入ると僕は牛丼をはじめとする各種丼、カレーなど多くあるメニューの中から好みのものを選び食券を買う。席に座るとランウェイのようになった細い通路を店員がやってきて食券を受け取る。店員は再びランウェイを戻っていきそのままキッチンへいく。何も仕切りの無い店内では席からキッチンが見え、自分の注文したものがつくられる様子が確認できる。5分も経たずして目の前に料理はやってきて、僕はそれを15分ほどで完食する。ここまでの時間、およそ20分間。
松屋のような食品店を「ファストフード」と呼ぶ。ファストフードといえばマクドナルドがその仕事効率最適化マニュアルなどで代表例として挙げられるが、松屋とマクドナルドの間では同じファストフードながら決定的に違う所がある。マクドナルドの速さの秘密には、調理方法から厨房内での行動や接客の仕方等の店内における「店員の」行動全てが労働負担を最小限にするようセットされたマニュアルの通りに行われる点にある。逆に松屋を見てみると、「客の」行動をいかに制限するかによってその速さが生み出される。松屋ではスピードレースに重要要素として客が入っているのだ。
店内は3種の空間から成る。入り口から最も遠い位置にあるキッチン。入り口とキッチンを結ぶようにして通るランウェイ型の店員用通路。ランウェイ型通路を取り囲むようにして設置された客用の椅子と机。この配置は客の動きを極力制限するように図られている。会計の手間+人件費削減のため客は入り口ですぐ食券を買わされる。そこから客は空いている席を容易に確認し、最短距離でそこへ向かう。カウンターのような椅子と机の配置は食料を口に運ぶことに意識を集中させる作用があり、店の回転率を上げる。キッチンや洗い場の光景、他人の食べ物をかきこむ音、事務所のように堅苦しい蛍光灯の光、永遠に流れるPRのBGM。この場所でゆっくりと時を過ごそうと思わせる要素があまりない。スーパー合理的エネルギー補給工場の様子がこれで分かるだろう。
ファストフードにも色々あるのだと、久しぶりに入った松屋にて感心した一時だった。
早稲田大学 創造理工学部建築学科 佐藤鴻