第16回:「建築と社会」授業紹介

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建築学科の1年生には毎年「建築と社会」という授業が必修である。簡単に言えば最前線にいる建築家や建築関係者を招待してレクチャーや対談を聴くという講義だ。内容は概して実社会における建築の役割やあり方・影響などについてで、彼らの経験と視点に基づいている。堅苦しい雑誌編集長から大手ゼネコンの働き屋、暴力的でさえある生の建築家、そして彼らの話の軌道修正と引き立てのために同席する建築学科教授。まだ何も分からない高校生に毛が生えただけの1年生のために、毎週多様な面子があらゆる方向から刺激してくれるという週中で最も盛り上がる授業だ。質問も残り30分の間で盛んにあり、そこで生まれる生徒との対話も普通の講演会やシンポジウムではなかなかない味がある。

毎回来るゲスト講師陣が一貫して凄いのは、彼らの持つ凄まじい実績に伴わない謙虚な姿勢だ。僕らの倍以上ある年齢を差し置いて倍以上のバイタリティと好奇心で学び、激動の時代を強い意志と勇気そして継続する根気と共に生き抜いている姿にただただ圧倒される。「必死」とは正に彼らのような人を指す言葉で、そんな人間は周囲の空気を持っていくチカラがある。彼らの周りは常に何かが活発に動き、次々と事が過ぎ去って行く様だ。そんな彼らの姿に僕らは衝撃を受け、課題や日常に辛さを感じていた自分がバカバカしく思えてくるのだ。またそこで拍車をかけられる。

急に客観的なはなしに変わるが、ここで大学側は学生に「魔法」をかけていると言える。早稲田の建築学科は伝統的にエリート育成に重点を置いて来た機関だ。「200人の中から優れた1人が出てくれればそれで良い」というその昔のスタンスが今でも色濃く残っている。ここでいう「魔法」というのはつまり、学生の士気をあげる先に僕が述べた様なことである。厳しい課題を乗り越え、優秀な建築専門家になって母校に貢献するような人材育成の為といったところだ。

何はともかく、この講義自体が興味深く単純に面白いものであることに間違いはない。毎週水曜日、西早稲田駅構内にある理工キャンパスの57号館 202大教室で3限(13:00-14:30)に「建築と社会」はやっている。外部の人間も先輩もぞろぞろとやって来る特別な講義なので、是非一度来てみると良いだろう。何かが変わるきっかけになるかもしれない。

更新:2011-07-02
早稲田大学 創造理工学部建築学科 佐藤鴻