第38回:『コードは議論に勝つ – Code wins arguments.』

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『コードは議論に勝つ – Code wins arguments.』
ハッカーの持説

facebook創始者のマーク・ザッカーバーグが2012年2月1日に提出した株式上場申請書に自らの手紙を添付した。その中で彼は社内で良く聞かれる上記の言葉を挙げた。ハッカーとは、現存するものに対してより優れたものを提案する人々であると彼は言う。提案の方法は過激だが、それは純粋なアイディアの試作と実現を目指した能動的な動きだ。良し悪しの議論の前に、現物を目前に打ち出すことで相手を納得させる実力主義者たちなのだ。

この姿勢はクリエイター全般に強く求められているものと言える。クリエイターとは「0から1」を創り出す者。例えば建築家、映画監督、彫刻家、ウェブクリエイター、プロダクトデザイナーなどが分かり易い。クリエイターは史上に存在しなかったものをこの世に産む(産もうとする)人たちであり、正確にはどんな分野にも存在しうる人々だ。固定観念を打ち破り新たな一歩を踏み出した偉人たちはこのような「クリエイター」精神を全員が共通して持っているのではないか。これは前に紹介したエマニエル・カントの「目的なき合目的性」という言葉と似たニュアンスがある(http://you2.jp/ao/arc_034.htm)。そこで僕は「自分でもそこに意味があるのかは分からないけれど、とにかくやり続けることや積み重ねること自体に、実は意味が隠れている。」と書いたのを思い出す。

僕は更に思う。確かにザッカーバーグが言うように『完璧よりも終わらせる事が重要 – Done is better than perfect.』という言葉はある意味では間違っていない。期限に間に合わなければ、ライバルに追い抜かれれば、確かに成果は全て無となるかもしれない。しかしこの意見には何か違和感がある。これはある集団全体の動きのルールであって、個人に対して薦められるものではないということだ。終わらせる事が最終的なゴールではない。終わらせる前に、一歩踏みとどまり、もう一度目の前の「コード」を見ること。そしてそこに新たな可能性やしっかりとした着地点を見極めること。それこそが真の意味での「0から1」を創り出すということなのではないか…。

更新:2012-03-03
早稲田大学 創造理工学部建築学科 佐藤鴻