第53回:美的感覚と性的感覚1
学校の英語の先生が「なぜ日本にはバイセクシャルが少ないんだ?」というのを不思議そうに言っていたので、少し考えた事を書いてみようと思う。bisexualについて語るには、まず始めにある文化の美的感覚と性的感覚が似ているということについて説明したい。つまりこれは、ある文化圏で「何を良いとするか」という問題である。美的感覚にしても性的感覚にしても、人の深層にある欲求でありほとんど同じものと捉えられるからだ。
・日本の美観
日本の美学は「奥ゆかしさ」と良く言われる。日本はジメジメとした国で、国土の7割もある山地によってもたらされる川などの水系環境基本の風土を持つ。そんなジメジメした風土がもたらすのは食べ物、服、建物などの最も身近なハードとなるものだ。モスバーガーがコンセプトとして掲げるように、日本人の好きな食物は肉汁などのジューシーな汁の出るものだ。和服はムレないように、ほとんど裸のような状態で布一枚を巻いただけのものだ。日本建築も木や紙が腐らないような通気性を考えた作りになっている。更にソフトとなるものにももちろんジメジメ感は浸食している。僕はこれこそが「奥ゆかしさ」であり、ここに美と性のシンクロがあるように感じる。
日本の「奥ゆかしさ」は古くは村社会に始まっている。村では人は常に隣の芝を観察し合っている。あいつの家の畑は豊作だ、あそこの子どもはいつも鼻を垂らしている、隣のところの嫁さんは左利きだ、昨日は向かいは鍋を食べていた…。現代でもSNSがそれに近い存在で、僕たちは友人や知り合いと密接に繋がって互いを観察し合い、色んな人の顔色を伺いながら発言したりする。距離が近い人間同士は自然とタイトな関係性を持ち、昔は物理的な距離、今では精神的な距離の近さに起因して、直接的から間接的な表現をするようになった。これは「本音と建前」や「空気を読む」ということに表れる様に、あいまいに間接的に相手とコミュニケーションをすることが日本では良い作法とされる。
早稲田大学 創造理工学部建築学科 佐藤鴻