第56回:スケートが変えたもの1
ファッションという概念が発生する前から、人は既にシーンによって着る服を持っていた。
仕事、戦争、娯楽、冠婚葬祭などの人間の基本的な生活シーンで、それは気候や文化圏や国境を越えるごとに異なった。それからしばらくが経ち、「ファッション」という服をマーケットとする業界が現れた。彼らは先のようなシーン別の服たちを一般向けに作り直して売った。今年は乗馬スタイルなら来年は水夫スタイルなどの売り方だ。そこからは流行が生まれ、消費され、次々と取り上げるシーンを変えていった。そして次第にサンプルされ尽くされたシーンたちは、再び時を経て繰り返し使われる。しかし繰り返し使われるモデルには次第に飽きが生まれ、それも消費しつくされた。その次に生まれたのは「組み合わせ」という方法だ。消費されたモデルたちを再び組み合わせることでパターンを増やし、既視感を払拭しようとする画期的な概念だ。それが現代のファッションの行き着いたところだと僕は感じている。
最近日本ではストリートファッションというものが大流行している。少し前からあるダボダボの服を着てチェーンを腰からさげ、NYと書かれたキャップを斜めに被ったようなヒップホップ調のストリートではない。細身のパンツにスナップやカラフルな絵の書かれたTシャツを身につけ、浅目のキャップを被りリュックを背負って身軽にスケボーに乗るようなストリート系だ。恐らく日本のみならず、世界中で流行していると思われる。ここ5年で急成長したシーンで、いま世界中でものすごい勢いで生産・消費されている。なぜこのような大流行が来ているのかと言えば、先ほど話したファッション業界の話を思い出すと理解し易い。つまりこのスケボーを中心としたストリート系は近年生まれたばかりのシーンということだ。
早稲田大学 創造理工学部建築学科 佐藤鴻