第94回:必要なのはきっかけ(その2)
前回のつづきです。
船に乗っていたのはたった一ヵ月半でしたが、自分の力不足や甘さを感じるには十分な期間でした。いくらテストで点数が取れても、実際に面と向かって物が言えなければ意味がない。あの一ヵ月半のおかげで、英語への取り組み方・向き合う姿勢が、かなり変わったと思います。いったんやる気(本気)になると、いままであんなに苦労しても覚えられなかった単語がスッと頭に入ってきたりして、全体の勉強時間自体は短くなりました。歯磨きのように、毎日コツコツと。特に意識しなくても、真剣に向き合うことで、自然とそうなっていたんだと思います。
サッカー・インテルの長友選手のように、海外のチームに移籍してまだ間もないのにもかかわらず、見事な語学力を身につけることが、スポーツ選手には多く見られます。もちろん、本人の性格的な部分も大きいとは思いますが、「いち早くチームに馴染んで良いプレーをしなければ・・・」という必死さが、言葉の習得スピードを加速させている気がします。語学の勉強にせよ何にせよ、「なんとなくやりたいからやる」のではなく、「できなきゃまずい、話にならない」というくらいの切羽詰まった感覚、追い込まれた状況を経験することが、本気で取り組むためのなによりの〈きっかけ〉になるのかもしれません。
自分の場合、世界船での経験は、語学への取り組み方や卒業後の進路など、それまでの自分をもう一度見直し、カツを入れ、方向転換し再加速する、大きなきっかけとなりました。これから先、社会人になったあとも、こうしたチャンスには敏感に、見境なく常に飛び込んでいきたいと思いますし、なによりもまず自分自身が、どんなに厳しい状況や経験も〈きっかけ〉としてプラスに捉えられるような人間でいたいなと思います。
第24回「世界青年の船」事業も、参加するみんなにとって、〈いいきっかけ〉になりますように。横浜の港を出てだんだん小さくなっていく船の後ろ姿を見送りながら、ふとそんなことを考えました。
慶應義塾大学 環境情報学部 水谷晃毅