第305回:卒業(2)

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僕らが日吉キャンパスの並木道を上がるころには、雨はだいぶ小降りになっていた。傘をさしてもささなくても変わらないような弱い雨。逆に傘が荷物になるような、くどいようだがまったく面倒な天気である。

並木道の始まるキャンパスの入口と中腹に「平成27年度慶應義塾大学大学院卒業式」と大きく書かれた看板がかかっていて、その前で記念写真を撮ろうと卒業生の行列が出来ている。行列は、ご両親などと一緒に式に出席するらしい学生が大多数だ。きっと親の方が撮りたいんだろうなぁなどと連想する。特に家族が来るでもない独り身集団の我々は、小雨ちらつく中、行列に加わる気にはなれず、彼らを横目にスタスタと並木道の頂上にある式場、日吉記念館を目指す。

慶應大学の入学・卒業式では満席に詰め込んでも全員入り切らないような日吉記念館だが、大学院ともなれば生徒数もたかが知れている。前日に大学の卒業式だったためパイプ椅子だけは館内一面に敷き詰められたまま、その4分の3ほどがロープ仕切られて使用禁止とされている。それが、今日の式の規模とハコの大きさが合っていないことを強調していて、何となく間が抜けて見える。

卒業式の内容自体は、まあ大学の時と同じようなもの。ただ並々ならぬ肩幅をもつ僕にとって、余裕なしにピッチリと並べられたパイプ椅子はあまりに窮屈でとても肩身が狭く、肩が凝って仕方がない。ここでも中身とハコの大きさが合っていない。

その後、卒業生は各研究科ごとに分かれ、それぞれ小さな教室へと移動する。ここでようやく一緒に勉強してきた仲間が一堂に会す。男はみんなピシッとスーツを着込んで、女は大半が袴である。「程度の差はあれ、みんな馬子にも衣装じゃないか」なんて一人思いながら、割り当てられた席に着く。学部の卒業式では、学部に割り当てられた教室で事務員に学生証を渡し、引き換えに学位記をもらうだけの極々事務的な作業のみだったが、今回はまるで趣が違う。学部長の言葉を頂いた後、卒業生一人一人名前を呼ばれて前に行き、お世話になった先生方の見守る中、学位記をもらう、とずいぶんちゃんとした式であった。修士論文作成に当たって随分とお世話になった、というか迷惑をかけた先生たちに見守られているのが少し居心地悪く、「そんな仰々しく渡してくれなくていいのに・・・こっそりでいいのに・・・」と若干恐縮しながら学位記を頂いた。