第306回:半学半教
前回と前々回の投稿に続き、卒業式のあった3月28日の話を少し小説家気取りの文章で書き続けようと思っていたけれど、やめた。なんかパッとしないなぁと思いながら書いていたら、やっぱり読んでいる方も退屈していたみたいだから。親しい読者に指摘された。今度、こんな風に出来事を書く機会があれば、もっと楽しかった一日を文章にしようと思う。
さて、僕はこの4月の新学期から慶應の授業をボランティアで手伝っている。教科はもちろん体育の柔道である。この授業の担当教官が、たいへんお世話になった大学体育会柔道部の師範でもあられる先生で、その方からお話しを頂いたという経緯だ。毎週金曜日の2・3限、日吉キャンパスの柔道場で、もちろん一般学生さんたちを相手に行う授業である。
慶應大学の日吉キャンパスにあるいくつかの学部は、体育が必修科目ではない。だから僕の通っていた湘南藤沢キャンパスと比べると当然、履修人数が少ない。中でも柔道は、バスケやテニスなど他の王道科目に比べ、人気がない。爽やかでキラキラした慶應ボーイ&ガールが、何が嬉しくて暑苦しくてドロドロした柔道をやらなきゃいけないんだ・・・と言わんばかりの不人気である。そんなこんなで、今期2限は5人、3限は10人ほどの履修者である。
この人数を聞くと、ちょっぴり寂しそうだと思われるかもしれない。が実はそうでもない。柔道という競技を、安全に、楽しく教えるにはこれくらいの人数が理想とも言えるのだ。生徒2人~3人に対し経験者1人が手取り足取り教える、非常に贅沢で充実した授業が出来る。実際こんな風に自分で教えてみると、中学・高校の授業1クラス40人程度を一人の体育教師が担当する苦労や、事故が起きてしまう現状が少し分かったような気もしてくる。
また、この授業を履修してくれる学生さんたちはみんな真面目でやる気がある。なぜか? 先に書いたように必修でもない体育。他の競技科目は「少し身体を動かしたい」とか「新しい友達を作りたい」とか「出席さえしていれば単位がもらえそう」なんて軽いノリで何となく履修する人が多いようだが「柔道」は違う。必修でない上に人数も少なくお世辞にも楽ではない。だから履修者はみんな「柔道がやりたい or やってみたい」と高い意識を持って授業に臨んでくれるのである。これが教える側としては凄くありがたい。
そんな熱心な学生たちと触れ合うと、柔道ってのはどこかしら人を惹きつける魅力のある楽しいスポーツなのだ、と気が付く。これを言うと「お前らが一番惹きつけられている人種だろ!」とツッコまれそうだが、僕を含めて人生をかけた柔道家たちは、あまりにも当事者過ぎてこれを忘れがちなのである。
毎週金曜日、僕は初心に戻って柔道を楽しむことを思い出す。学生に教えながら自分も勉強。「半学半教」なんだか凄く慶應っぽいね。